2017年シーズンから、ワールドツアーレースが大幅に増加します。
増加に伴って、ワールドツアーのランキング&ポイントシステムも大幅に変更がありました。
UCIのオフィシャルページのレギュレーション資料を参考に、要点をまとめてみました!
UCIのランキングシステム
UCIのランキングシステムは大きく分けて2つあります。
一つは、ワールドツアーレースでの獲得ポイントを争う『ワールドツアーランキング』です。(※以下、ワールドツアーはWTと表記)
もう一つは、オリンピックや世界選手権の出場枠数を決めたり、アフリカ・アメリカ・アジア・ヨーロッパ・オセアニア各地域ごとの獲得ポイントを争う『UCIランキング』です。
UCIランキングで用いられるUCIポイントは、UCI公認レースならどのカテゴリーのレースでも獲得出来ますし、国内選手権やオリンピックや世界選手権でも獲得出来ます。
UCIランキングも興味深いランキングではありますが、今回はWTランキングのシステムに絞って解説していきます。
WTランキングの概要
WTランキングには2つのランキングがあります。
・個人ランキング
・チームランキング
の2種類です。
2016年までは国別ランキングがありましたが、2017年からは廃止となりました。
個人ランキング
最も重要なランキングです。個人が獲得したポイントがベースとなって、チームランキングと国別ランキングも決まります。
個人ランキング1位の選手は、WT優勝の栄誉を獲得することが出来ます。
肝心のポイントは、シンプルに言うとWTレースで好成績を収めるとWTポイントを獲得することが出来ます。HCカテゴリーなどの下位カテゴリ、オリンピックや国内選手権ではWTポイントを獲得することが出来ません。
ちなみに2016年シーズンのWTのランキング1位はペーター・サガンでした。
チームランキング
チームランキングはWTライセンス発行に大きく関わる重要な指標となります。
各チームごとに、所属選手の個人ポイントの合計点で争われます。
2016年シーズンまでは、チーム内の上位5名の合計ポイントで争われていました。そのため、絶対的なエースを抱えるチームと、全員がバランス良く活躍するチームでは、後者にとって非常に不利なシステムでした。
2016年シーズンのチームランキング8位のキャノンデール・ドラパックは616ptsでしたが、個人ランキング1位のペーター・サガンは一人で669pts獲得していました。サガン一人で、キャノンデール以下の11チームに勝ってしまうようなシステムでしたが、2017年からはチーム全体の合計点となります。
このため、優勝出来るほどの力が無かったとしても、コンスタントに上位に入ることが出来る選手の価値が高まったと言えます。
WTポイントの配分について
最も重要なWTポイントシステムの詳細に入ります。
レース毎にポイントの配分が決められています。
最終成績に与えられるポイント
ワンデーレースは着順、ステージレースなら総合順位に対して与えられるポイントです。
レース毎に同じ順位でも獲得できるポイントに差が生まれます。
2016年までは、グランツールは上位20位まで、その他ステージレースやワンデーレースでは上位10位までがポイントを獲得出来ていましたが、2017年からは上位60位までポイントを獲得できるようになりました。
ツール・ド・フランス
・対象レース
ツール・ド・フランス
・ポイント配分
1位、1000
2位、800
3位、675
4位、575
5位、475
6位、400
7位、325
8位、275
9位、225
10位、175
11位、150
12位、125
13位、105
14位、85
15位、75
16位、70
17位、65
18位、60
19位、55
20位、50
21〜25位、40
26〜30位、30
31〜40位、25
41〜50位、20
51〜55位、15
56〜60位、10
ツールで総合優勝すると1000pts獲得できて、総合60位で完走すると10pts獲得です。
その他グランツール
・対象レース
ジロ・デ・イタリア
ブエルタ・ア・エスパーニャ
・ポイント配分
1位、850
2位、680
3位、575
4位、460
5位、380
6位、320
7位、260
8位、220
9位、180
10位、140
11位、120
12位、100
13位、84
14位、68
15位、60
16位、56
17位、52
18位、48
19位、44
20位、40
21〜25位、32
26〜30位、24
31〜40位、20
41〜50位、16
51〜55位、12
56〜60位、8
ツールに対して約15〜20%少ないポイントになっています。この比率は2016年とほとんど変わっていません。
モニュメント、著名ステージレース、ヨーロッパ外のWTレース
対象レース:
ミラノ〜サンレモ
ヘント〜ウェヴェルヘム
ツール・デ・フランドル
パリ〜ルーベ
アムステルゴールドレース
リエージュ~バストーニュ~リエージュ
グランプリ・シクリスト・ドゥ・ケベック
グランプリ・シクリスト・ドゥ・モントリオール
イル・ロンバルディア
ツアー・ダウンアンダー
パリ〜ニース
ティレーノ〜アドリアティコ
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ
ツール・ド・スイス
ツール・ド・ロマンディ
・ポイント配分
1位、500
2位、400
3位、325
4位、275
5位、225
6位、175
7位、150
8位、125
9位、100
10位、85
11位、70
12位、60
13位、50
14位、40
15位、35
16〜20位、30
21〜30位、20
31〜50位、10
51〜55位、5
56〜60位、3
グランツール以外のレースでは最もポイント配分が高くなっています。ツール・ド・フランスのほぼ半分です。
GPケベック、GPモントリオール、ツアー・ダウンアンダーなど、ヨーロッパの外のWTレースの配分が高くなっていて、UCIが世界にレースを売り出したい思惑が見て取れます。
その他ワンデーレース・ステージレース
・対象レース
E3ハーレルベルケ
フレーシュ・ワロンヌ
クラシカ・サンセバスチャン
サイクラシックス・ハンブルグ
ブルターニュクラシック・ウエストフランス
ブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・バスコ
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ
ツール・ド・ポローニュ
エネコツアー
・ポイント配分
1位、400
2位、320
3位、260
4位、220
5位、180
6位、140
7位、120
8位、100
9位、80
10位、68
11位、56
12位、48
13位、40
14位、32
15位、28
16〜20位、24
21〜30位、16
31〜50位、8
51〜55位、4
56〜60位、2
ヨーロッパで行われる、その他のワンデーレースやステージレースです。モニュメントや著名ステージレースに比べて20%ほどポイント配分が少なくなっています。
2016年シーズンとほぼ同じ比率となっています。
新規追加WTレース
・対象レース
カデル・エヴァンス・グレートオーシャンロードレース
オムループ・ヘット・ニュースブラッド
ストラーデ・ビアンケ
ドワーズ・ドア・フラーンデレン
エシュボルン・フランクフルト
ライドロンドン&サリークラシック
ツアー・オブ・カタール
アブダビツアー
ツアー・オブ・ターキー
ツアー・オブ・カリフォルニア
ツアー・オブ・チワン
・ポイント配分
1位、300
2位、250
3位、215
4位、175
5位、120
6位、115
7位、95
8位、75
9位、60
10位、50
11位、40
12位、35
13位、30
14位、25
15〜20位、20
21〜30位、12
31〜50位、5
51〜55位、2
56〜60位、1
2017年からWTカレンダーに追加されたレースです。モニュメントや著名ステージレースに比べて40%ポイント配分が少なくなっています。
ステージ優勝に与えられるポイント
ステージレース限定で、プロローグや各ステージでの優勝者、ならびに上位入賞者に与えられるポイントです。
こちらも上記最終順位に与えられるポイントと同様のカテゴライズで、ポイント配分の比率が変わります。
ツール・ド・フランス
・対象レース
ツール・ド・フランス
・ポイント配分
1位、120
2位、50
3位、25
4位、15
5位、5
その他グランツール
・対象レース
ジロ・デ・イタリア
ブエルタ・ア・エスパーニャ
・ポイント配分
1位、100
2位、40
3位、20
4位、12
5位、4
著名ステージレース
・対象レース
ツアー・ダウンアンダー
パリ〜ニース
ティレーノ〜アドリアティコ
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ
ツール・ド・スイス
ツール・ド・ロマンディ
・ポイント配分
1位、60
2位、25
3位、10
その他ステージレース
・対象レース
ブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・バスコ
ツール・ド・ポローニュ
エネコツアー
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ
・ポイント配分
1位、50
2位、20
3位、8
新規追加WTステージレース
・対象レース
ツアー・オブ・カタール
アブダビツアー
ツアー・オブ・ターキー
ツアー・オブ・カリフォルニア
ツアー・オブ・チワン
・ポイント配分
1位、40
2位、15
3位、6
ステージ優勝のポイント配分の大枠は、2016年までと大差はありません。
グランツールの山岳賞・ポイント賞獲得者に与えられるポイント
2016年シーズンまでは無かった、新たな要素です。
マイヨ・アポワルージュや、マイヨ・プントスなど山岳賞とポイント賞のランキングの最終順位にポイントが付与されることになりました。
残念ながら、新人賞や敢闘賞にはポイントがつきません。
ツール・ド・フランス
・対象レース
ツール・ド・フランス
・ポイント配分
1位、120
2位、50
3位、25
その他グランツール
・対象レース
ジロ・デ・イタリア
ブエルタ・ア・エスパーニャ
・ポイント配分
1位、100
2位、40
3位、20
2016年ブエルタ山岳賞のオマール・フライレは、WTポイントを2ptsしか獲得できませんでしたが、この新ルールによって活躍が報われることになります。
リーダージャージ着用ステージ数に与えられるポイント
こちらも新要素です。
ステージレースでリーダージャージを着用したステージ数に対して、ポイントが付与されます。
ツール・ド・フランス
・対象レース
ツール・ド・フランス
・ポイント配分
1ステージあたり25pts
その他グランツール
・対象レース
ジロ・デ・イタリア
ブエルタ・ア・エスパーニャ
・ポイント配分
1ステージあたり20pts
著名ステージレース
・対象レース
ツアー・ダウンアンダー
パリ〜ニース
ティレーノ〜アドリアティコ
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ
ツール・ド・スイス
ツール・ド・ロマンディ
・ポイント配分
1ステージあたり10pts
その他ステージレース
・対象レース
ブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・バスコ
ツール・ド・ポローニュ
エネコツアー
ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ
・ポイント配分
1ステージあたり8pts
新規追加WTステージレース
・対象レース
ツアー・オブ・カタール
アブダビツアー
ツアー・オブ・ターキー
ツアー・オブ・カリフォルニア
ツアー・オブ・チワン
・ポイント配分
1ステージあたり6pts
新ランキング&ポイントシステムに変化したことによる影響
スプリンター不利の時代は続く
2016年までのルールでは、圧倒的にクライマーたちステージレーサーが有利でした。2016年個人ランキングのトップ10のうち、クライマー以外の脚質の選手は1位のペーター・サガンと6位のフレフ・ヴァンアーヴェルマートのみです。
ピュアスプリンターにとっては受難と言えるシステムで、アレクサンダー・クリストフの15位が最高で、ツールで勝ちまくったマーク・カヴェンディッシュは66位でした。
理由は、ステージ優勝のポイント配分が少ないことが原因です。
残念ながら、2017年の新ルールでもステージ優勝のポイント配分は2016年とほぼ変わらずなので、スプリンター受難の時代は続きそうです。
しかし、スプリンター向きのWTが追加されたことは朗報です。
ライドロンドン&サリークラシック、エシュボルン・フランクフルトはスプリンター向きのワンデーレースです。
ピュアスプリンターがポイントを稼ぐなら、スプリンター向きのレースに積極的に出場するか、石畳系のクラシックレースで結果を出すしかなさそうです。
アタッカーが多いチームにとっては大いなるプラス
チームランキングが上位5名のポイントの合計ではなく、チーム全体の合計ポイントになったことと、上位60名までポイントが加算されるようになったことが大きいです。
従来のポイントシステムは、圧倒的なエースがごっそりポイントを稼いで、チームランキングでも上位にランクインする傾向にありました。粒揃いのアタッカーが揃い、幅広い選手が活躍するチームにとっては、ランキングで伸び悩んでいました。
クイックステップ・フロアーズ、キャノンデール・ドラパック、FDJ、ロットNL・ユンボ、ロット・ソウダル、ジャイアント・アルペシン、ディメンションデータあたりのチームは、2016年よりポイントを伸ばせるのではないかと思います。
アシスト選手もポイント獲得のチャンスが増える
上位60名までポイントが入るということは、フィニッシュ直前で仕事を終えたアシスト選手たちにもポイントが入る機会が増えるということです。
ただ、これには多少の批判も存在するようです。
例えば、ミラノ〜サンレモでは、フィニッシュまで数キロの地点にある勝負どころのポッジオの丘の手前で仕事を追えて、丘を登らずにリタイアする選手も多いそうです。この姿もサイクルロードレースの風物詩として美談化されているので、仕事を終えて疲弊しきったアシスト選手がふらふらと丘を登って完走を目指すことは美しくないという見方もあります。
それでも、普段は見えにくいアシスト選手たちにもポイントが入ることは良いことだと、わたしは考えています。
まとめ
なんだかんだでやってみないと分からないのが新ルールです。
わたしはスプリンターが不利すぎることを除けば、概ね前向きにとらえています。
ポイント獲得できる選手の人数と幅が広がったことで、新たなスター選手の誕生に繋がる可能性の方を楽しみにしたいと思います。