カチューシャ・アルペシン戦力分析!【2017年シーズン】

ホアキン・ロドリゲスの引退、世界王者トニ・マルティンの獲得、そして新スポンサーを迎えたカチューシャ・アルペシンの戦力分析です。

アレクサンダー・クリストフ体制から、イルヌール・ザッカリン体制へ移行したと見える、ステージレース重視のメンバー構成となっています。

カチューシャ・アルペシン2017ロースター

ss-7

マキシム・ベルコフ(ロシア)
スヴェンエリク・ビストロム(ノルウェー)
マルコ・ハラー(オーストリア)
パヴェル・コチェトコフ(ロシア)
アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)
ヴィアチェスラフ・クズネトソフ(ロシア)
アルベルト・ロサダ(スペイン)
ティアゴ・マチャド(ポルトガル)
マトヴェイ・マミキン(ロシア)
ミカエル・モロコフ(デンマーク)
ニルス・ポリット(ドイツ)
ヨナタン・レストレポ(コロンビア)
レイン・ターラマエ(エストニア)
アンヘル・ビシオソ(スペイン)
イルヌール・ザッカリン(ロシア)
シモン・スピラク(スロベニア)

・新加入選手

イェンテ・ビールマンス(ベルギー)←ワンティ・グループゴベール(PCT、ベルギー)
ホセ・ゴンサルベス(ポルトガル)←カハ・ルラル(PCT、スペイン)
レト・ホレンシュタイン(スイス)←IAMサイクリング
ロベルト・キセロフスキー(クロアチア)←ティンコフ
マウリツ・ラメルティンク(オランダ)←ルームポット・オランジェロッテリー(PCT、オランダ)
トニ・マルティン(ドイツ)←エティックス・クイックステップ
マルコ・マシス(ドイツ)←レッドネット・ローズ(CT、ドイツ)
バプティステ・プランカールト(ベルギー)←ワロニー・ブリュクセレス(CT、ベルギー)
マッズ・ウルツシュミット(デンマーク)←チーム・トレフォー(CT、デンマーク)
リック・ツァベル(ドイツ)←BMCレーシング

・退団選手

ユルゲン・ヴァンデンブルック(ベルギー)→ロットNLユンボ
セルゲイ・シェルネツキ(ロシア)→アスタナ
ジャコッポ・グアルニエーリ(イタリア)→FDJ
アレクサンダー・ポルセフ(ロシア)→ガスプロム・ルスヴェロ(PCT、ロシア)
ドミトリー・コゾンチュク(ロシア)→ガスプロム・ルスヴェロ(PCT、ロシア)
セルゲイ・ラグティン(ロシア)→ガスプロム・ルスヴェロ(PCT、ロシア)
アレクセイ・ツァテビッチ(ロシア)→ガスプロム・ルスヴェロ(PCT、ロシア)
アレクサンダー・マース(ベルギー)→未定
ヴィアディミール・イサイチェフ(ロシア)→未定
アントン・ヴォロビエフ(ロシア)→未定
ホアキン・ロドリゲス(スペイン)→引退
エドゥアルド・ヴォルガノフ(ロシア)→引退

総合エースはザッカリン、ジロとブエルタを狙う

チームの象徴的存在だったホアキン・ロドリゲスの引退によって、ロシアの至宝イルヌール・ザッカリンが単独エースを担います。

2015年にツール・ド・ロマンディで総合優勝して台頭すると、同年のジロ・デ・イタリアでステージ優勝、翌2016年はパリ〜ニースでステージ1勝してから、2度目のジロで大いに躍動しました。

難関ステージで、総合上位のライバルを振り切るほどの力強いクライミングを見せ、第18ステージ終了時点で、総合優勝を果たすヴィンチェンツォ・ニーバリから7秒遅れの総合5位につけていました。

ところが、第19ステージで総合首位だったステフェン・クライスヴァイクも落車したダウンヒルで、ザッカリンも谷底に吹っ飛ぶほどの大落車をしてしまいます。鎖骨と肩甲骨を折り、無念のリタイアとなりました。無事に走っていれば、総合優勝も視野に捉えていただけに、非常に残念な結果となってしまいました。

怪我から復帰すると、ぶっつけ本番でツール・ド・フランスに臨みます。大会序盤は低調なパフォーマンスでしたが、後半になるにつれ登りにキレ味を増していきます。

そして、第17ステージでは超級山岳フィノー・エモッソンへ独走で逃げ切り勝利を飾りました。

やはり体調が万全なザッカリンなら、強力なグランツールレーサーを蹴散らす力強い走りが出来ると、世界に示した2016年シーズンでした。2017年のザッカリンは、無茶でも無謀でもなく、非常に有力なグランツール総合優勝候補と言えましょう。

山岳アシスト陣も枚数は揃っている

まずは、ティンコフから獲得したロバート・キセロフスキーです。アルベルト・コンタドールの専属アシストと言ってもよい活躍をしていた選手ですが、コンタドールの移籍したトレック・セガフレードではなくカチューシャ・アルペシンへの移籍を決めました。

グランツールでの最高順位は2010・2014年ジロ総合10位と、エースとしても結果を出せる力を持っています。

レイン・ターラマエも強力なクライマーです。2016年ジロでは、ザッカリンのアシストを見事に務め上げ、ザッカリンのリタイア後は、エースの無念を晴らすかのごとく、第20ステージで逃げ切り勝利を決めました。

ティアゴ・マチャドは、ずっと期待され続けている選手ではありますが、なかなか結果を出すことが出来ていません。クライマーとしてザッカリンを支えるというよりは、自らステージ優勝も狙いながら、アシストもこなすような出場の仕方をするのではないかと思います。

アルベルト・ロサダは2007年のケースデパーニュ時代から、2016年までの10年間、ホアキン・ロドリゲスと共に過ごしました。ホアキンの右腕中の右腕的存在です。長年の経験を、ザッカリンへと継承してほしいものです。

現ロシアチャンピオンのパヴェル・コチェトコフ、ブエルタ・ア・ブルゴス新人賞を獲得した22歳のマトヴェイ・マミキン、ツアー・オブ・ターキー総合優勝のホセ・ゴンサルベスと実力者たちが揃っています。

2010年ツール・ド・ロマンディ総合優勝、2013〜2015年のツール・ド・ロマンディ総合2位、2015年ツール・ド・スイス総合優勝のシモン・スピラクも控えています。ただ、スピラクはなぜだか近年グランツールへの出場がほとんどないので、グランツール以外のステージレースでエース格として出場していくのかもしれません。

2人の世界チャンピオンと1人の元世界チャンピオンが加入

世界選手権個人TT優勝のトニ・マルティンが、エティックス・クイックステップから移籍しました。

個人TTのステージ優勝が大半を占めるなかで、通算60勝以上あげていることが、トニ・マルティンの凄まじさを物語っています。

ツールでは2009年総合36位、2014年総合47位と、比較的上位で完走することが出来るだけの登坂力を持ち合わせていることがトニ・マルティンの強さのもう一つの側面です。

カチューシャ・アルペシンのもう一人のエースが、このトニ・マルティンと言えましょう。

個人TTステージでの勝利がトニ・マルティンのミッションであり、チームの目標でもあります。それだけでなく、合間のステージではしっかりアシストしてくれる頼もしい存在です。

トニ・マルティンが一人いれば、一般的なルーラー3名分の働きをしてくれることでしょう。カチューシャ・アルペシンにとって、新たな攻めの武器であり、守りの盾となります。

そして、同じく世界選手権でチャンピオンとなった選手を獲得しています。ドイツ人のマルコ・マシスはU-23個人TTの世界チャンピオンです。

過去のU-23個人TTの世界チャンピオンには、ダミアン・ハウスン、ルーク・ダーブリッジ、テイラー・フィニー、ジャック・ボブリッジ、アドリアーノ・マローリなどがいます。

大先輩のトニ・マルティンの薫陶を受けながら、TTスペシャリストとして大いに育ってほしいものです。

また、2015年のU-23個人TT世界チャンピオンは、マッズ・ウルツシュミットです。この選手もカチューシャ・アルペシンが獲得しました。

2016年はデンマーク国内U-23のロードとTTのチャンピオンにもなっています。HCクラスのツアー・オブ・デンマークでは、個人TTステージ優勝&新人賞&総合3位と、TT以外でも活躍している将来が楽しみな選手です。

さらに、IAMサイクリングから身長197cmのレト・ホレンシュタインも獲得しています。2016年ロード世界選個人TTでは9位でした。

加えて、2015年ツール・ド・ロマンディ山岳賞のマキシム・ベルコフ、2016年ロード世界選ドイツ代表メンバーのニルス・ポリットもいます。

ルーラーの選手層を厚くしてきたカチューシャ・アルペシンは、ステージレースに力を入れていることがわかります。

新加入のラメルティンクのパンチ力に注目

2016年ツール・ド・ルクセンブルク総合優勝のマウリツ・ラメルティンクを獲得しました。

プロ通算2勝、グランツール出場1回と実績に乏しい26歳のオランダ人選手を、カチューシャ・アルペシンは2年契約で獲得しました。

なぜなら、ツール・ド・ルクセンブルクの歴代優勝者には、2014年マッティ・ブレシェル、2012年ヤコブ・フグルサング、2011・2015年リーナス・ゲルデマン、2009年フランク・シュレクと第一線級の選手たちばかりが名を連ねているからです。

ラメルティンクも、このようなパンチャータイプ、オールラウンダーなレーサーとしての期待がかかるのです。

2017年シーズン最大の目標は母国オランダの最大のワンデーレースである、アムステルゴールドレース優勝です。さらに、ツールにも初出場することが決まっています。ツールでは、ステージ優勝を狙う走りに注目です。

ヴィアチェスラフ・クズネトソフは、2016年ヘント・ウェヴェルヘム3位という成績が光ります。ピーター・サガン、セプ・ヴァンマルケ、ファビアン・カンチェラーラと共に逃げ切っての表彰台獲得でした。クラシカルなレースでの活躍に期待が持てます。

パプティステ・プランカールトは、隠れた逸材かもしれません。2016年までベルギーのコンチネンタルチームやプロコンチームで走っており、グランツールへの出場経験はありません。

2016年に1クラス以上ではプロ初勝利を含むシーズン3勝をあげました。1クラスや2クラスのレースでは、安定して一桁順位でフィニッシュするような一定の力を持った選手で、2016年のUCIヨーロッパツアーで最もポイントを獲得した選手となりました。

このプランカールトの覚醒に目をつけ、獲得に至りました。初めてのワールドチーム、初めての国外チームとなりますが、ワールドツアーでの活躍が楽しみです。

2017年に40歳となるアンヘル・ビシオソは、登れるパンチャーです。それ以上にタフさを活かして、グランツールやワンデーレースでの献身的なアシスト任務をこなしてくれることでしょう。

かつて、ジュニア部門のツール・ド・フランドルでの優勝経験のあるイェンテ・ビールマンスも加入しています。

悲願の世界チャンピオンを狙うクリストフ

ザッカリン、トニ・マルティンだけでなく、アレクサンダー・クリストフという稀代のピュアスプリンターも在籍しています。

2016年シーズンのクリストフは、肝心なところで勝ちきれない展開が多く、ワールドツアーでは0勝に終わりました。

さらに、クリストフの頼もしいリードアウト役のジャコッポ・グアルニエーリが移籍してしまいました。

代わりのスプリンターとして、BMCレーシングからリック・ツァベルを獲得しましたが、実績に乏しくグアルニエーリの代役は荷が重いと言えましょう。

代わって、ミカエル・モロコフが最終発射台の第一候補となります。ツアー・オブ・カタールではクリストフの最終発射台を見事に務め、クリストフはステージ3勝をあげる活躍を見せています。

25歳のマルコ・ハラー、新進気鋭のコロンビア出身の22歳のヨナタン・レストレポ、クリストフの後輩にあたるノルウェー出身で元U-23ロード世界チャンピオンのスヴェンエリク・ビストロムの成長にも期待がかかります。

しかし、グアルニエーリが抜けた穴はあまりにも大きいです。

残り1kmを切るまでのトレインの機関車役としては、トニ・マルティンらを含む強力なルーラー陣を補強していますが、最終発射台となるリードアウト役の層が薄くなってしまいました。

ただでさえ苦しんだ2016年シーズンだっただけに、2017年シーズンのクリストフには若干の不安を覚えてしまいます。

ゆえにクリストフは、母国で開催される世界選手権に照準を合わせているとの報道もありました。

世界選手権のコースは起伏に富んだコースで、ピュアスプリンターの脚質では厳しそうです。ひょっとしたら、スプリンターからパンチャーへ転身して、ワンデークラシックでの優勝狙いと世界選手権狙いに切り替えてくる可能性も否めません。

様々な意味でクリストフは要チェックな選手です。

スプリンターチームから、ステージレース狙いのチームへ変貌を遂げたか

ステージレース:★★★★☆
ワンデーレース:★★☆☆☆
ステージ優勝:★★★★☆
スプリント:★★★★☆

新たに獲得した10名の選手のうち、ザッカリンのグランツール制覇に貢献するために獲得したと言える選手は7名です。

昨年までの絶対的エースと言えるクリストフのために獲得したと言える選手は1名であることから、ザッカリンへの期待度の高さがうかがい知れます。

2016年の勝ち切れないクリストフに対して、ザッカリンのジロでの素晴らしい走りとツールでのステージ優勝を見ると、ザッカリンに期待したくなる気持ちは十分に理解できます。

世界チャンピオンのトニ・マルティンも含め、ステージレース狙いの布陣で2017年を戦うことになりそうです。

もちろん、クリストフもチーム内ではエースであることに間違いないのですが、若干微妙な立場に追い込まれているように見えます。得意の中東のステージレースがワールドツアーになったことで、2年ぶりのワールドツアー勝利を果たすのか。それとも、ワンデークラシックを狙って脚質を変えてくるのか、注目です。

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