2018年はチームで33勝をあげたボーラ・ハンスグローエ。
絶対的エースとして君臨するペテル・サガンに加え、勝利を期待できるパスカル・アッカーマンとサム・ベネットの3人で勝ち星量産を狙う。
ボーラ・ハンスグローエ2019ロースター
パスカル・アッカーマン(24、ドイツ、S)
エリック・バシュカ(24、スロバキア、S)
チェザーレ・ベネデッティ(31、イタリア、R・E)
サム・ベネット(28、アイルランド、S)
マチェイ・ボドナル(33、ポーランド、TL)
エマヌエル・ブッフマン(26、ドイツ、C)
マークス・ブルグハート(35、ドイツ、RS・U)
ダヴィデ・フォルモロ(26、イタリア、C)
フェリックス・グロスチャートナー(25、オーストリア、PC)
ピーター・ケニャック(29、イギリス、RC)
レオポルド・ケニッグ(31、チェコ、A)
パトリック・コンラッド(27、オーストリア、A)
ラファル・マイカ(29、ポーランド、C・E)
ジェイ・マッカーシー(26、オーストラリア、P)
グレゴール・ミュールベルガー(24、オーストリア、R)
ダニエル・オス(31、イタリア、RS・U)
クリストフ・フィングステン(31、ドイツ、P)
パウェル・ポリャンスキー(28、ポーランド、C)
ルーカス・ペストルベルガー(26、オーストリア、RS)
ユライ・サガン(29、スロバキア、PS)
ペテル・サガン(28、スロバキア、S・PS・U・D)
アンドレアス・シリンガー(35、ドイツ、R)
ミヒャエル・シュヴァルツマン(27、ドイツ、RS・L)
リュディガー・ゼーリッヒ(29、ドイツ、S・L)
・新加入選手
ジェンピー・ドリュエール(32、ルクセンブルク、PS・L・U)←BMCレーシングチーム
オスカル・ガット(33、イタリア、RS・U)←アスタナプロチーム
マクシミリアン・シャフマン(24、ドイツ、T・RC)←クイックステップフロアーズ
・退団選手
ミカル・コラー(26、スロバキア、RS)→引退
マッテーオ・ペルッキ(29、イタリア、S・L)→アンドローニ・ジョカトリ・シデルメク(PCT、イタリア)
アレクセイ・サラモティンス(36、ラトビア、R)→インタープロサイクリングアカデミー(CT、日本)
※
S:スプリンター
C:クライマー
A:オールラウンダー(ステージレーサー)
TS:10km以下の短い距離に強いTTスペシャリスト、TL:30km以上の長距離に強いTTスペシャリスト、T:どちらの性質も持つTTスペシャリスト
PS:スプリントに強いパンチャー、PC:上りに強いパンチャー、P:どちらの性質も持つパンチャー
RS:スプリントに強いルーラー、RC:上りに強いルーラー、R:どちらの性質も持つルーラー
E:逃げのスペシャリスト
L:リードアウトマン
U:石畳・未舗装路に強い
D:ダウンヒルが得意
※年齢は2018.12.31時点で換算
2018年シーズンの主な戦績
・シーズン 33勝(4位タイ)
(うちワールドツアー 22勝)
・UCIランキング
ワールドツアーチーム:9180pts、3位
ワールドツアー個人:ペテル・サガン(2992pts、2位)
UCIポイント個人:ペテル・サガン(3092pts、4位)
・チーム勝利数ランキング
9勝 アッカーマン
8勝 ペテル・サガン
7勝 サム・ベネット
2勝 マッカーシー
・レース出場日数ランキング
82日 ペテル・サガン
81日 マイカ、ボドナル、フォルモロ
77日 シリンガー、ベネデッティ、ペストルベルガー
・グランツール総合最高成績
ジロ・デ・イタリア:コンラッド(7位)、フォルモロ(10位)、グロスチャートナー(27位)
ツール・ド・フランス:マイカ(19位)、ペテル・サガン(71位)、ミュールベルガー(76位)
ブエルタ・ア・エスパーニャ:ブッフマン(12位)、マイカ(13位)、フォルモロ(22位)
・モニュメント最高成績
ミラノ〜サンレモ:ペテル・サガン(6位)
ロンド・ファン・フラーンデレン:ペテル・サガン(6位)
パリ〜ルーベ:ペテル・サガン(優勝)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:フォルモロ(7位)
イル・ロンバルディア:マイカ(7位)
戦力補強アナリティクス
評価:★★★★☆
ドリュケールは昨シーズンは、ロンド・ファン・フラーンデレン31位、パリ〜ルーベ23位といずれもチーム内ではグレッグ・ヴァンアーヴェルマートに次ぐ
好成績を収めた石畳系クラシックを得意とする選手だ。さらにトップ10以内に入った回数が16回と高いスプリント力も見せている。ペテル・サガンのアシストだけでなく、アッカーマンとベネットのスプリントトレインとしての起用も見込める。
ガットはルーラー、スプリントの発射台といった役割を担うことが多い選手だ。昨シーズンは未勝利に終わり、レース出場日数56日と満足といえるシーズンではなかった。ペテル・サガンとは2016年のティンコフ時代のチームメイトであり、同年はペテル・サガンの出場するレースの大半に帯同するなど気心知れた仲だ。やはり、サガンのアシストとしての期待がかかる。
シャフマンは昨シーズン大ブレイクを果たした選手の一人で、プロ初勝利を含む3勝を飾った。特にジロ・デ・イタリアではグランツール初出場ながら第18ステージで逃げ切り勝利をあげた。脚質はルーラーで、山岳・平坦問わず高速巡航することができる。今後は総合系へと転向していくことも考えられるが、まずはスプリントトレインの一角としての起用が期待されるだろう。
獲得は3名ながらも、チームの強みをさらに発揮するための的確な補強をした。
ちなみに、サラモティンスは日仏混合チームのインタープロへ移籍。日本人選手は4人所属しており、ワールドチームでの経験を彼らに伝えてくれることが期待される。
注目選手プレビュー
全盛期を迎えたペテル・サガン
ペテル・サガンの壮大な目標の一つが、モニュメントを全て制覇することだ。しかし、ミラノ〜サンレモやパリ〜ルーベを勝てるような身体で、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュやイル・ロンバルディアを勝つことはあまりにも難しい。したがって、現在はスプリンター寄りの体型をしていることもあり、2019年の大きな目標の一つはまだ勝利していないスプリンターズクラシックの頂点であるミラノ〜サンレモとなるだろう。
もちろん3年ぶりの優勝を狙うロンド・ファン・フラーンデレン、連覇のかかったパリ〜ルーベも重要な目標となってくる。昨シーズンはオス、ブルグハートのアシストが光っていたが、ここにドリュケールとガットが加わることで非常に手厚い布陣で春のクラシックに挑むことができるだろう。
クラシックに強い脚質を持ちながら、ピュアスプリンターと互角以上の走りを見せるスプリント力もペテル・サガンの魅力の一つだ。ツール・ド・フランスではステージ3勝をあげ、落車による痛みに耐えながらもパリにたどり着き、6度目のマイヨヴェールに輝いた。2019年ももちろんツールへ出場することだろう。そして、7度目のマイヨヴェール獲得となればエリック・ツァベルの記録を抜いて史上最多記録となる。
また、4連覇を逃すこととなった2018年の世界選手権は明らかにクライマー向けであり、サガンは完走することすらできなかった。一方で2019年にイギリス・ヨークシャーで開催される世界選手権のコースはいわゆるパンチャー向けのコースとなっており、ペテル・サガンにドンピシャ合っているのだ。もし勝てば、こちらも史上最多4度目のアルカンシェル獲得だ。
2019年に29歳を迎えるペテル・サガンにとって、今が選手としての最盛期に差し掛かっているところだ。サイクルロードレース界の歴史に残る選手の全盛期を、チームとしても最高の戦力を整えバックアップしてくれているのだ。
大ブレイクを果たしたパスカル・アッカーマン
2016年はドイツ国内U-23ロード選手権で勝利し、世界選手権U-23ロードでは2位と将来を嘱望されてドイツチームのボーラ・ハンスグローエに加入するもプロ1年目の2017年シーズンは、シーズン最終戦のツアー・オブ・グアンシー第1ステージで3位に入ったことが目立つくらいで、ほとんど何も成し遂げることができなかった。
ところが、2018年シーズンは4月のツール・ド・ロマンディ第5ステージで待望のプロ初勝利を飾ると、クリテリウム・デュ・ドーフィネでのステージ1勝。ドイツ国内選手権エリートロードを制すると、プルデンシャル・ライドロンドン・サリークラシックでは絶好調のエリア・ヴィヴィアーニを打ち破る大金星をあげた。勢いに乗ったアッカーマンは続くツール・ド・ポローニュでも第1・2ステージと連勝。さらにシーズン終盤のHCクラスのワンデーレース、ブリュッセル・サイクリング・クラシックとグランプリ・ド・フルミーでも勝利。最後はツアー・オブ・グアンシー第2ステージで勝利し、チーム最多の9勝をあげる活躍を見せた。
そんなアッカーマンの活躍を支えているのが同じドイツ人のゼーリッヒだ。アッカーマンの9勝のうち7勝を飾ったレースに帯同し、最終発射台として起用されている。また、新加入のシャフマンはアッカーマンと同い年だ。スプリントトレインの戦力だけでなく、ドイツ人の絆も強化されている。
2019年シーズンはジロ・デ・イタリアもしくはブエルタ・ア・エスパーニャでグランツールデビューを飾ることになりそうだ。ヴィヴィアーニだけでなく、アルノー・デマールやディラン・フルーネウェーヘンにも勝利したアッカーマンは、今やトップスプリンターの一人といえる存在となりつつある。
2年連続で結果を残したベネット
ジロ・デ・イタリアではヴィヴィアーニが4勝をあげるなか、ベネットも負けじと3勝をあげる活躍を見せた。また、相性の良いツアー・オブ・ターキーでは今年も3勝をあげ、直近2年で19勝と勝利を量産している。
同タイプのスプリンターであるアッカーマンとの棲み分けもできており、2018年シーズンに2人が一緒に出場したレースはわずかに2つのみ。2019年もグランツールはジロもしくはブエルタに出場し、もう一方にアッカーマンが出場する見込みだ。
懸念事項があるとすると、ツアー・オブ・ターキーで抜群のコンビネーションを見せていたリードアウト役のペルッキが退団となったことだろう。ただし、ジロでは実質単騎で立ち回ってステージ3勝をあげたように、ライバルスプリンターの付き位置を確保して戦うことができるので、大きな問題とはならないだろう。
総合エースを担うコンラッド
地元オーストリアの世界選手権では奮わず59位に終わったコンラッドだが、2018年シーズンはその高いポテンシャルを見せた一年だった。
パリ〜ニース総合7位、イツリア・バスクカントリー総合10位と安定した走りに加えて、フレーシュ・ワロンヌでは10位に入るなど、上りに強さを見せていた。そして、ジロ・デ・イタリアでは大崩れしない走りを見せ、自己ベストの総合7位と大健闘。
シーズン後半のツール・ド・ポローニュでは逃げ屋として存在感を発揮して山岳賞を獲得。グランプリ・シクリスト・ド・ケベックでは5位、グランプリ・シクリスト・ド・モンレアルでは9位とパンチャー・スプリンターに混じって上位に入賞。個人タイムトライアルでもそこそこの走りを見せており、まさしくオールラウンドな走りを持ち味としている選手なのだ。
この調子でベースアップしていけば、グランツールの表彰台を争うことができるはずだ。2019年に28歳となる伸び盛りな年齢も魅力の一つだ。
著しい成長を見せたグロスチャートナー
ジロ・デ・イタリアでは山岳アシストとして難関山岳ステージの終盤でも集団内に残るような走りを見せ、第20ステージでは逃げ切ってステージ3位に入った。ワンデークラシックとスプリントに強いボーラ・ハンスグローエ内ではとても貴重なクライマーだ。
そして、シーズン最終戦のツアー・オブ・グアンシーではクイーンステージとなる第4ステージで2位に入り、総合でも2位となって、2019年にむけて期待が膨らむ結果を残した。
ドイツ人ステージレーサーとして期待のかかるブッフマン
2009年ツール・ド・フランスで総合5位となったアンドレアス・クレーデン以来、ドイツ人レーサーでグランツールの総合トップ10に入った選手は出ていない。
しかし、ブッフマンは2017年クリテリウム・デュ・ドーフィネで新人賞に輝き、2018年はブエルタ・ア・エスパーニャ総合12位と、いま最もグランツールの総合トップ10に近いドイツ人ライダーなのだ。
イツリア・バスクカントリー総合4位、ツール・ド・ロマンディ総合9位、クリテリウム・デュ・ドーフィネ総合6位、ツール・ド・ポローニュ総合7位とワールドツアーのステージレースで安定して一桁順位の結果を残しているように、着実に力をつけている印象だ。
2019年はステージレースの総合表彰台とグランツールトップ10が目標となるだろう。
上れるスプリンターの座を継承するマッカーシー
母国開催のカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースで優勝を飾ったときの勝ち方がとても素晴らしく、イツリア・バスクカントリー第3ステージでもパンチャー同士のスプリント勝負を制すなど、とても期待が高まったものの、シーズン中盤以降はもっぱらアシストに専念する形となり、結局シーズンを通してこれら2勝に留まった。
とはいえ、シーズン2勝は自己最高の結果だ。個人的にはミラノ〜サンレモやリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを制した経験を持ち、2018年限りで引退したサイモン・ゲランスのような選手なる力を秘めた選手だと思っている。オージーパンチャーの座を継承し、さらなる飛躍を期待したい。
不屈のファイター・マイカの復活なるか
もしかしたら2018年はマイカにとって最悪のシーズンだったかもしれない。なぜなら2018年は1勝たりともあげることができなかったからだ。
ツアー・オブ・カリフォルニア第2ステージではエガン・ベルナルの独走を許してステージ2位。ブエルタ・ア・エスパーニャ第13ステージでは無名のオスカル・ロドリゲスに上りでかわされて2位。いずれも新星の若手に敗北を喫して勝利を逃している。もうあとひと押しが足りないというもどかしさを感じる走りだった。
2019年に30歳となる年齢だが、決して衰えているわけではないだろう。総合狙いとステージ狙いの間で、自分の役割を見失っている感がするので、2019年シーズンはどちらかに絞って明確な走りを見せてほしい。個人的にはステージ優勝を狙ったマイカの走りを見たいと思う。
チーム総合評価
ステージレース:★★★☆☆
北のクラシック:★★★★★
アルデンヌクラシック:★★★☆☆
スプリント:★★★★★
個人タイムトライアル:★★★★☆
チームタイムトライアル:★★★★☆
平均年齢:28.6歳
33勝のうち24勝をあげたペテル・サガン、アッカーマン、ベネットが引き続きチームの主力を担うことになる。脇を固めるアシスト陣も充実しており、エース3人が調子を維持さえすれば、2018年シーズンのように勝利量産が期待できるだろう。
課題はステージレースの総合成績、山岳ステージでの戦いとなる。直接的な補強はないものの、コンラッド、フォルモロ、ブッフマン、グロスチャートナーのさらなる成長と、マイカが復活さえすれば十分に補うことができるだろう。
そうすれば、勝利数だけでなくUCIワールドツアーチームランキングでも首位を狙えるほどの、非常に高いレベルでバランスの良いチームとなるだろう。
(おまけ)サイバナの推しメン:シュヴァルツマン
プロ選手としてのキャリアは、新たに誕生したコンチネンタルチームであるチーム・ネットアップに加入した2010年から始まった。シュヴァルツマンは、新チームの初期メンバーの一員だった。
翌年の2011年からチームはプロコンチネンタルチームに昇格。チーム名をネットアップ・エンデューラ、ボーラ・アルゴン18と変え、2017年にはワールドツアーに昇格し、ワールドチームのボーラ・ハンスグローエとなった。
シュヴァルツマンは当初はプロのスピードについていくのが精一杯で、なかなか勝負に絡むことができなかったが、2016年のツール・ド・アゼルバイジャン第5ステージで待望のプロ初勝利を飾った。多くの同朋が去っていくなか、いまやワールドチームの一員としてグランツールへの出場は3回、モニュメントへの出場は8回と順調にキャリアを歩んでいる。
2010年結成当初のメンバーで、今もボーラ・ハンスグローエで走っているのはシュヴァルツマン、ベネデッティ、シリンガーの3人のみ。ベネデッティはリクイガスの下部組織で育ち、シリンガーは2009年以前は他のコンチネンタルチームで走っていた。純然たる生え抜き選手はシュヴァルツマンだけなのだ。
そもそもチームの存続が難しく、さらに移籍の激しいサイクルロードレース界でチームの誕生から一貫して同じチームに所属する稀有な選手なのだ。いわばボーラ・ハンスグローエのサクセスストーリーは、シュヴァルツマンの成長物語といっても過言ではない。
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