世界王者アレハンドロ・バルベルデを擁するモビスターチーム。
ナイロ・キンタナ、ミケル・ランダに、マルク・ソレル、リチャル・カラパスとオールラウンダーが揃うグランツールに特化した布陣となっている。
モビスターチーム2019ロースター
アンドレイ・アマドール(32コスタリカ、RC・E)
ウィネル・アナコナ(30、コロンビア、C)
ホルヘ・アルカス(26、スペイン、RC)
カルロス・バルベロ(27、スペイン、PS)
ダニエーレ・ベンナーティ(38、イタリア、RS・U)
カルロス・ベタンクール(29、コロンビア、C)
リカルド・カラパス(25、エクアドル、A・C)
エクトル・カレテロ(23、スペイン、R)
ハイメ・カストリリョ(22、スペイン、RC)
イマノル・エルビティ(35、スペイン、R・U)
ルーベン・フェルナンデス(27、スペイン、PC)
ミケル・ランダ(29、スペイン、A・C)
ネルソン・オリヴェイラ(29、ポルトガル、T)
アントニオ・ペドレロ(27、スペイン、RC)
ナイロ・キンタナ(28、コロンビア、A・C)
ホセ・ロハス(33、スペイン、P)
エドゥアルド・セプルベダ(27、アルゼンチン、C)
マルク・ソレル(25、スペイン、A)
ヤシャ・ズッタリン(26、ドイツ、R)
ラファエル・バルス(31、スペイン、RC)
アレハンドロ・バルベルデ(38、スペイン、A・C・PC・U・D)
・新加入選手
カルロス・ベローナ(26、スペイン、C・E)←ミッチェルトン・スコット
ユルゲン・ルーランズ(33、ベルギー、S・L・U)←BMCレーシングチーム
エドゥアルド・プラデス(31、スペイン、PC)←ブルゴス・BH(PCT、スペイン)
ルイス・マス(29、スペイン、PC・E)←カハルラル・セグロスRGA(PCT、スペイン)
・退団選手
ビクトル・デラパルテ(32、スペイン、C)→CCCチーム
ダイエル・キンタナ(26、コロンビア、C)→タルコール・プロサイクリングチーム(PCT、イタリア)
ヌーノ・マトス(24、ポルトガル、R)→ブルゴス・BH(PCT、スペイン)
ハイメ・ロソン(25、スペイン、C)→未定※バイオロジカル・パスポート違反により一時的な出場停止処分中
※
S:スプリンター
C:クライマー
A:オールラウンダー(ステージレーサー)
TS:10km以下の短い距離に強いTTスペシャリスト、TL:30km以上の長距離に強いTTスペシャリスト、T:どちらの性質も持つTTスペシャリスト
PS:スプリントに強いパンチャー、PC:上りに強いパンチャー、P:どちらの性質も持つパンチャー
RS:スプリントに強いルーラー、RC:上りに強いルーラー、R:どちらの性質も持つルーラー
E:逃げのスペシャリスト
L:リードアウトマン
U:石畳・未舗装路に強い
D:ダウンヒルが得意
※年齢は2018.12.31時点で換算
2018年シーズンの主な戦績
・シーズン 27勝
(うちワールドツアー 12勝)
・UCIランキング
ワールドツアーチーム:7409pts(8位)
ワールドツアー個人:バルベルデ(2609pts、3位)
UCIポイント個人:バルベルデ(4168pts、1位)
・チーム勝利数ランキング
14勝 バルベルデ
3勝 カラパス
3勝 バルベロ
2勝 ナイロ・キンタナ
・レース出場日数ランキング
85日 セプルベダ、ダイエル・キンタナ
84日 アマドール、デラパルテ
83日 エルビティ
・グランツール総合成績
ジロ・デ・イタリア:カラパス(4位)
ツール・ド・フランス:ランダ(7位)
ブエルタ・ア・エスパーニャ:バルベルデ(5位)
・モニュメント成績
ミラノ〜サンレモ:バルベロ(57位)
ロンド・ファン・フラーンデレン:エルビティ(60位)
パリ〜ルーベ:エルビティ(30位)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:バルベルデ(13位)
イル・ロンバルディア:バルベルデ(11位)
戦力補強アナリティクス
評価:★★☆☆☆
若手選手を補強はなく、中堅選手4人の補強に留まった。
確かにバルベルデを中心に既存戦力の層は厚く、ソレルやカラパスなど次世代の総合系選手も育ちつつあるので、ある意味では理にかなった補強なのかもしれないが、ワクワクがあまり感じられない。とはいえ、獲得したのはみな良い選手である。
ベローナはイツリア・バスクカントリー、ツール・ド・フィヨルドで山岳賞を獲得。ツアー・オブ・グアンシー総合5位という結果を残した。山岳ステージでの逃げを得意とする選手だ。マスも山岳ステージでの逃げを得意とし、ブエルタ・ア・アンダルシアでは山岳賞を獲得した。
ルーランズは、チームの弱点の一つである北のクラシックでの活躍が期待できる選手だ。ボルタ・ア・バレンシアナでは自身5年ぶりとなるステージ優勝を飾り、スプリンターがほとんどいないモビスターにおいてはエーススプリンターを任せることもできるだろう。ステージレースではスプリントだけでなく、平坦アシストとして起用することもできる。
プラデスは、チームUKYO所属のベンジャミン・プラデスの弟だ。2018年はプロコンチネンタルチーム所属ながら、ツアー・オブ・ターキーでは2位とタイム差なしの超接戦を制して総合優勝を飾った。プロコンの選手がワールドツアーのステージレースで総合優勝したのは、2011年にブエルタ総合優勝を飾ったファンホセ・コーボ以来の出来事だ。ほかにもブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオン総合3位、ツール・ド・ヨークシャー総合2位、ツアー・オブ・ノルウェー総合優勝と短い上りの多いステージレースを得意とするパンチャータイプの選手である。
それぞれ良い選手ではあるが、退団した選手たちも良い選手ばかりなのだ。差し引きどれだけ戦力がプラスになったかといわれると、星2つ分くらいの評価ではないかと思う次第である。
注目選手プレビュー
歳を重ねるほどに強くなるバルベルデ
モビスターの全てを支えている選手といっても過言ではない。2018年はシーズン14勝を飾り、念願の世界王者にも輝いた。稼ぎ出したワールドツアーポイントは1人でカチューシャ・アルペシン(2757pts)とほぼ同じであり、モビスターの3分の1を占めている。
ヒルクライム、激坂、石畳、未舗装路、平坦、スプリント、タイムトライアル、ダウンヒル、すべての局面を得意とし、真のオールラウンダーといえる素晴らしいパフォーマンスを見せている。スポーツ選手にとって最大の敵であるはずの「加齢」すら、バルベルデにとっては経験を積んでさらに強くなる要素でしかない。
そんなバルベルデには弱点が2つある。
ひとつは悪天候だ。強風、降雨、低温など、サイクリングにあまり適さない環境ではバルベルデの力は半減してしまう。もうひとつはバルベルデの奥さんだ。シーズンオン・オフ問わず、バルベルデの食事面での徹底した管理をされており、奥さんには頭が上がらないそうだ。
2019年は38歳にしてロンド・ファン・フラーンデレンへ初参戦を計画している。バルベルデのタフさと石畳への適応能力を考えると、優勝候補の一角にあげられるかもしれない。とはいえ、メインターゲットはアルデンヌクラシック、ジロ、ブエルタとなるだろう。
正念場のシーズンを迎えたキンタナ
彗星のごとくツールの表彰台を獲得し、とてつもないグランツールレーサーの登場に世界が沸いてから早5年。ジロとブエルタで1度ずつ総合優勝を飾っているものの、ツールでは3度の総合2位。
なかなか頂点がつかめずにいると、むしろ近年はツールでの低迷が目立つようになってきた。2018年はツール総合10位、ブエルタ総合8位と2013年以来、毎年必ず登っていたグランツール表彰台を逃すことに。
チームには2018年に加入したランダが、GMのお気に入りであり、エクアドル人ライダーのカラパスも台頭。今オフは弟のダイエルを放出され、キンタナのチーム内での影響力低下も気になるところだ。
2019年はモビスターとの契約最終年。チームと契約延長するにせよ、他のチームへの移籍を模索するにせよ、グランツールでエースとして走る体制を築くためには結果を残すしか道はない。キンタナはいま、正念場を迎えている。
スペインの未来と称されたランダ
2017年ツールでは、フルームのアシストをこなしながらも総合4位となった。しかし、表彰台を目前にした大会終盤、自身の総合成績よりもフルームのアシストを優先するチームオーダーに怒りを覚えていた。
そうして、スカイを離れモビスターではGMのウンスエに「スペイン自転車界の未来」とまで称されたものの、移籍1年目は1勝止まり。期待のツールでは、トリプルエース戦略が見事に空振り、ランダは前年よりも成績が悪化して総合7位だった。第9ステージで落車して身体を痛めた影響だったとしても、舗装路でドリンクを取ろうとした際の単独落車とあっては、運のなさよりもランダの油断が目立つ。
その後、クラシカ・サンセバスチャンでは集団落車に巻き込まれて、腰椎骨折の重傷を負った。何とかシーズン終盤にレース復帰したものの、本調子とは程遠いパフォーマンスが続いていた。
2019年はジロとツールを狙う予定だが、まずは怪我の影響を感じさせない走りを取り戻せているかどうか注目したい。そして、ジロではバルベルデと、ツールではキンタナとの共同エースという形になるが、それぞれ連携が機能するかどうかも見ものである。
大器の片鱗を見せたソレル
2015年ツールドラヴニール総合優勝した逸材が、2018年はパリ〜ニース総合優勝を飾り、大器の片鱗を見せた。
タイムトライアルを得意にしており、パリ〜ルーベでは逃げ集団に乗る活躍を見せ、オールラウンドに活躍できる脚質であることを示した。
ツールでは、トリプルエースのアシストとして山岳ステージでは八面六臂の働きだった。
2019年は連覇を狙ってパリ〜ニース、グランツールは2年連続でツールに出場し、キンタナとランダのアシストを務める予定だ。
南米の星・カラパス
ジロ総合4位と、順位だけを見れば2018年のモビスターで最も良い成績を残したグランツールレーサーだった。母国エクアドルでは既に英雄視されるほどの人気を誇っている。
ブエルタでは、バルベルデとキンタナのアシストとして忠誠的な働きを見せていた。79日間レースに出場し全てで完走したタフネスさも魅力のひとつだ。
小柄なクライマーにありがちな弱点として、タイムトライアルは苦手にしている。それさえ克服できれば、グランツールウィナーになる素質の持ち主であろう。
2019年はジロに出場予定で、バルベルデとランダのアシストを務めるものと思われる。
スペイン自転車界では貴重なスプリンター・バルベロ
チーム内で唯一のスプリンターだった。2018年はシーズン3勝をあげたものの、まだキャリアでワールドツアーでの勝利はない。
ルーランズが加入したことで、スプリントトレインが多少強化されたものの、基本的には単騎で立ち回って勝利を狙う編成になるだろう。
チーム総合評価
ステージレース:★★★★★
北のクラシック:★★☆☆☆
アルデンヌクラシック:★★★★★
スプリント:★★☆☆☆
個人タイムトライアル:★★☆☆☆
チームタイムトライアル:★★★☆☆
平均年齢:29.0歳
グランツール総合に特化したチームとなっている。アルデンヌクラシックはバルベルデの突出した実力のおかげでチームの強みになっているだけだ。
キンタナ、ランダ、バルベルデ、カラパス、ソレルとグランツール総合上位を狙える選手が5人も揃っていることは、他のチームにはない最大の長所といえよう。いずれのグランツールも、ダブルエース+セカンドエース(兼エースアシスト)という体制で挑むことができるため、ハマれば山岳ステージにおいて全チームのなかで最高の攻撃力を発揮することができるだろう。…ということを、モビスターがトリプルエース戦略を発表した際にも同じ感想を抱いたのだが、ツールでは不発だった。結局のところ、連携と本人の体調によるところが大きそうだ。
また、平坦アシストも充実している。ベンナーティ、ズッタリン、ルーランズ、カレテロ、オリヴェイラ、山岳にも対応できるアマドール、アルカス、ロハス、ペドレロ、バルスなど、ルーラータイプの戦力層は厚い。
北のクラシック、スプリントでは戦力が薄すぎるため、勝利を期待するのは難しいかもしれない。
(おまけ)サイバナの推しメン:ベローナ
2013年にオメガファルマ・クイックステップでプロデビューを飾り、同年のジャパンカップで7位入賞を飾った。しかし、ワンデークラシックを重視する同チーム内では、スペイン人クライマーに活躍の場は少なく、2016年シーズン途中にオリカ・バイクエクスチェンジに移籍。2017年はジロとブエルタに出場したものの、2018年はグランツールへの出場はなし。さらなる活躍の場を求めて、スペインチームのモビスターへの移籍を決めた。まだプロでの実績は少ないが、今後の活躍が楽しみな選手である。
ベローナの特徴は走りだけではなく、シュッとした顔立ちにもある。爽やかなイケメンボーイは、自身の魅力を生かしてYoutuberとしても活動しているのだ。
自身のYoutubeチャンネルでは、プロ選手らしいトレーニングの様子や食事などを公開している。おそらく編集も自ら手がけているのだろう。アイキャッチ画像の作成、BGMの選定など、細かな作業を経て作り込まれている動画だ。しかし、ほとんどスペイン語で語られているため、なかなか内容まで把握することは難しいかもしれない。
そのなかでオススメの動画は、昨年出場したさいたまクリテリウムの舞台裏を撮影した動画だ。
アイキャッチにはしっかりとスペイン自転車界のレジェンドであるアルベルト・コンタドールとのツーショットを使用している。動画内でたびたび登場するベローナの隣にいる美人さんは、ベローナの奥様だ。実はマトリック・パワータグのアイラン・フェルナンデスの妹で、日本にはプライベートで訪れることもあるそうだ。
そんな日本にも縁が深いスペイン人クライマー、もしくはイケメンYoutuber・ベローナに注目だ。