2017年ジロ・デ・イタリア覇者のトム・デュムランを擁するチームサンウェブ。
主力選手の多くが移籍を決めたなか、若手中心の補強を通じてチームのベースアップを図る。
チームサンウェブ2019ロースター
ニキアス・アルント(27、ドイツ、S・L)
ロイ・クルフェルス(38、オランダ、RS・U)
トム・デュムラン(28、オランダ、A・T・U)
ヨハネス・フレリンガー(30、ドイツ、RC)
チャド・ハガ(30、アメリカ、T・R)
クリストファー・ハミルトン(23、オーストラリア、C)
ジェイ・ヒンドレー(22、オーストラリア、C)
レナード・ケムナ(22、ドイツ、T)
ウィルコ・ケルデルマン(27、オランダ、A・T)
ソーレン・クラークアンデルセン(24、デンマーク、T・PS・U)
マイケル・マシューズ(28、オーストラリア、S・TS・PS)
サム・オーメン(23、オランダ、C)
マイケル・ストーラー(21、オーストラリア、PC)
マーティン・トゥスフェルト(25、オランダ、RC)
ルイス・ヴェルヴァーク(25、ベルギー、C)
マキシミリアン・ヴァルシャイド(25、ドイツ、S)
・新加入選手
ニコラス・ロッシュ(34、アイルランド、C)←BMCレーシングチーム
ヤン・バーケランツ(32、ベルギー、PC)←アージェードゥーゼール ラモンディアール
ロブ・パワー(23、オーストラリア、PC)←ミッチェルトン・スコット
キャスパー・ペデルセン(22、デンマーク、PS)←アクアブルースポーツ(PCT、アイルランド)
チェース・ボル(23、オランダ、S・PS)←SEGレーシングアカデミー(CT、オランダ)※トレーニーから昇格
アスビョルン・クラークアンデルセン(26、デンマーク、P)←チームヴィルトゥサイクリング(CT、デンマーク)
ヨリス・ニューウェンハイス(22、オランダ、PS・U)←ディベロップメントチーム・サンウェブ(CT、ドイツ)
マックス・カンター(21、ドイツ、S)←ディベロップメントチーム・サンウェブ(CT、ドイツ)※トレーニーから昇格
マルク・ヒルシ(20、スイス、PC・A)←ディベロップメントチーム・サンウェブ(CT、ドイツ)
・退団選手
シモン・ゲシュケ(32、ドイツ、RC)→CCCチーム
ローレンス・テンダム(38、オランダ、C・RC)→CCCチーム
レナード・ホフステッド(24、オランダ、RC)→チーム・ユンボ
マイク・テウニッセン(26、オランダ、PS・U)→チーム・ユンボ
フィル・バウハウス(24、ドイツ、S)→バーレーン・メリダ
エドワード・トゥーンス(27、ベルギー、PS・U)→トレック・セガフレード
トム・スタムスナイデル(33、オランダ、RS)→引退
※
S:スプリンター
C:クライマー
A:オールラウンダー(ステージレーサー)
TS:10km以下の短い距離に強いTTスペシャリスト、TL:30km以上の長距離に強いTTスペシャリスト、T:どちらの性質も持つTTスペシャリスト
PS:スプリントに強いパンチャー、PC:上りに強いパンチャー、P:どちらの性質も持つパンチャー
RS:スプリントに強いルーラー、RC:上りに強いルーラー、R:どちらの性質も持つルーラー
E:逃げのスペシャリスト
L:リードアウトマン
U:石畳・未舗装路に強い
D:ダウンヒルが得意
※年齢は2018.12.31時点で換算
2018年シーズンの主な戦績
・シーズン 11勝
(うちワールドツアー 8勝)
・UCIランキング
ワールドツアーチーム:7266.95pts、9位
ワールドツアー個人:マシューズ(2393.19pts、7位)
UCIポイント個人:デュムラン(2693.86pts、8位)
・チーム勝利数ランキング
4勝 マシューズ
2勝 デュムラン、ソーレン・クラークアンデルセン、ヴァルシャイド
1勝 バウハウス
・レース出場日数ランキング
84日 ゲシュケ
83日 ハガ
81日 フレリンガー
79日 テンダム、テウニッセン
・グランツール総合成績
ジロ・デ・イタリア:デュムラン(2位)、オーメン(9位)、テンダム(35位)
ツール・ド・フランス:デュムラン(2位)、ゲシュケ(25位)、テンダム(51位)
ブエルタ・ア・エスパーニャ:ケルデルマン(10位)、ヒンドレー(32位)、タスフェルト(80位)
・モニュメント成績
ミラノ〜サンレモ:マシューズ(7位)
ロンド・ファン・フラーンデレン:テウニッセン(18位)
パリ〜ルーベ:テウニッセン(11位)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:オーメン(12位)
イル・ロンバルディア:オーメン(27位)
戦力補強アナリティクス
評価:★★★★☆
退団する7人のうち、引退するスタムスナイデルを除く6人がワールドチームへと移籍した。対して、ワールドチームからの戦力補強は3人に留まり、戦力ダウンは否めない。
特にゲシュケとテンダムは、デュムランが総合優勝した2017年ジロ・デ・イタリアでは影のMVP級といっていいほどの貢献を見せていた。テンダムはデュムランにとって兄貴分のような存在であり、ゲシュケは2009年のプロデビュー以来の生え抜き選手であり、2人とも替えの効かない人材だ。2人とも山岳アシストとして起用される機会が多かったため、上りに強いロッシュ、バーケランツ、パワーを獲得したが、ゲシュケとテンダムが抜けた穴は大きい。
またパワーを含めて、23歳以下の選手を6人獲得。パワーはジャパンカップサイクルロードレースでプロ初勝利を飾ったことが記憶に新しい。
ペデルセンは2017年欧州選手権U23ロード王者、同年のツアー・オブ・デンマーク第1ステージ優勝、2018年ダンケルク4日間レース総合5位&新人賞といった実績を持ち、北のクラシック要員・スプリントトレイン要員として起用される見込みだ。
ボルはワンデークラシックとスプリントを得意とし、2018年は2勝を飾り、トップ10圏内で9回フィニッシュする結果を残した。スプリントトレインに起用されながら、北のクラシックで走る力を磨いていく予定だ。
ニューウェンハイスは2017年U23シクロクロス世界王者で、やはり将来的に北のクラシックを狙えるよう育成していくこととなる。
カンターはツール・ド・ラヴニール第1ステージ優勝、ドイツU23ロード選手権優勝といった実績を持つ正統派のスプリンターだ。マルセル・キッテル、ジョン・デゲンコルプを育てたチームで、ピュアスプリンターとして鍛えていくことになるだろう。
ヒルシは2018年のU23世界チャンピオンにしてU23欧州チャンピオンである。ワンデーレースだけでなくステージレースでも結果を残しているオールラウンダーだ。アルデンヌクラシック、グランツールに向けて育成を進めていく方針だ。
ソーレン・クラークアンデルセンの兄・アスビョルンもチームに加わる。クラシック要員、スプリントトレイン要員として起用される見込みだ。
若手中心の補強ながら、逸材揃いのため将来性は非常に豊かである。長期育成しながら、確固たるチームの基盤を築いていく。
注目選手プレビュー
狙うはグランツール総合優勝しかないデュムラン
ココア1リットルがぶ飲みしてお腹を壊したり、レース中にトイレストップして危うく総合優勝を逃しかけたり、レースに負けて納得いかない時は誰がどう見てもわかりやすいくらい不機嫌な表情を浮かべるなど、実に人間味のあるマイペースな人物だ。
2018年シーズンはジロ・デ・イタリア総合2位、ツール・ド・フランス総合2位、世界選手権個人タイムトライアル2位、世界選手権ロードレース4位と、あと一歩のところでビッグタイトルを逃し続けた1年だったものの、グランツールの総合と世界選手権のロードとTT両方に手が届きそうな凄まじいポテンシャルを見せた。やはりデュムランは凄い。
デュムランは2017年世界選手権個人タイムトライアルチャンピオンになったように、TTスペシャリストとして高い独走力を持ちながら、同年のジロ第14ステージでは名うてのクライマーたちを圧倒するヒルクライムを見せてステージ優勝を飾るなど、クライマー級の登坂力を兼ね備えている。さらに石畳や未舗装路の走行も得意としており、まさにオールラウンドに戦える脚質の持ち主だ。
チームも2021年まで契約を延長し、デュムランでグランツールを獲るためのチームに作り変えているところだ。2019年シーズンはツールのコースがデュムラン向きではないことから、ジロがメインターゲットとなり、連戦でツールにも出場する予定だ。
悲願のアルカンシェルを狙うマシューズ
あだ名は「ブリング」。キラキラした装飾品やファッションを好むことからつけられたそうだが、チャラそうな見た目とは裏腹に人見知りというシャイな一面を持つ。
2018年シーズン前半はツール・ド・ロマンディのプロローグ優勝の1勝どまりだったが、シーズン終盤のカナダのワンデーレース2つで連勝を飾るなど、大量ポイントを稼いでワールドツアー個人ランキング7位の好成績を残した。
集団スプリントで勝てる瞬発力を持ちながら、フレーシュ・ワロンヌで5位に入るようにクライマー級の登坂力を持っている。そのため、スプリンターが生き残ることが難しい山岳・丘陵ステージで集団スプリントに持ち込めれば、マシューズの勝率はぐっと高まる。フレーシュワロンヌだけでなく、アルデンヌクラシックへの適性も十分にあるだろう。
世界選手権では過去に2015年に2位、2016年4位、2017年3位と惜しい結果が続いている。パンチャー向きと言われている2019年のヨークシャーでの世界選手権では悲願の優勝を狙う。
上れるピアニスト・オーメン
プロサイクリストはレースやトレーニングで身体を酷使するため、自転車に乗っていないときはじっとすることを好む。そのため、インドアな趣味を持つ選手が多く、オーメンもその一人だ。オーメンの趣味はピアノ演奏。いや、もはや特技といっても差し支えない腕前だ。ほかにもギターや料理も趣味にしているそうだ。(ちなみに、チームメイトのハガもピアノが得意)
※参考:オーメンのピアノ動画
デュムランのアシストとして出場したジロでは、自身も総合9位に食い込む活躍を見せていた。山岳アシストとしての働きも申し分ない。まだ23歳という若さも魅力で、さらに登坂力に磨きをかけて、強力なクライマーへの成長が期待される。
デュムランに次ぐ総合エース・ケルデルマン
2017年はブエルタ・ア・エスパーニャで総合表彰台まであと一歩の総合4位で完走した。さらなる飛躍が期待された2018年は相次ぐ怪我により散々な1年となった。
まずティレーノ~アドリアティコ第5ステージで落車して鎖骨を骨折。復帰後のオランダ国内ロード選手権で再度落車して、骨折はなかったものの鎖骨を再び痛めてしまった。そのためツール・ド・フランスの欠場を余儀なくされた。ブエルタでレースに復帰するも、調整不足感は否めず総合10位に終わった。
ブエルタ総合10位は決して悪い成績ではない。しかし、上りだけでなく、タイムトライアルでも良い走りを見せるケルデルマンのポテンシャルを考えると、もっと上を狙えるはずだ。デュムランのアシストだけでなく、自身が総合エースを務めるレースでの好成績を期待したい。
クラシック適性の高いソーレン・クラークアンデルセン
2018年はツール・ド・スイス第6ステージで独走勝利、新たに未舗装路区間が登場したパリ〜トゥールでも独走勝利を飾った。個人タイムトライアルでも好成績を残しており、高い独走力をベースに勝利を掴むことができる選手へと成長した。
このようなベースとなる巡航能力が高い選手を、出力を落とさずに上れる力を身に着けさせるノウハウをチームサンウェブは持っているはずだ。なぜなら、デュムランをグランツール覇者に育てたチームだからだ。短い石畳坂をこなす能力を身につけるのも時間の問題ではなかろうか。
筆者はソーレン・クラークアンデルセンは近い将来にロンド・ファン・フラーンデレンといった北のクラシックで勝利する選手になると思っている。
ジャーマンジャンボスプリンター・ヴァルシャイド
身長199cmという巨大な身体を使ったダイナミックなパワースプリントを武器としているライダーだ。まだワールドツアーでの勝利はないもののプロ通算8勝を飾っている。
体重は90kgを越えるため、上りに滅法弱いこととスタミナに課題である。どうにか集団に生き残ったとしても、最後にスプリントに挑むためのパワーを残せないことも多い。
夢は「パリ・シャンゼリゼでの勝利」と語っており、そのためにもよりいっそうのパワーアップを遂げたいところだ。
チーム総合評価
ステージレース:★★★★★
北のクラシック:★★★☆☆
アルデンヌクラシック:★★★☆☆
スプリント:★★★★☆
個人タイムトライアル:★★★★★
チームタイムトライアル:★★★★★
平均年齢:25.8歳
グランツールではデュムランを軸に、オーメン、ケルデルマンが山岳アシスト兼セカンドエースとして、新加入のロッシュが山岳アシストを務めると思われる。さらに、若手のヴェルヴァーク、パワー、ハミルトン、ヒンドレー、ストーラー、ヒルシが成長すれば非常に手厚い布陣となるだろう。ゲシュケとテンダムが抜けた穴は大きいが、山岳でデュムランをサポートする戦力は増えたという見方ができそうだ。
北のクラシックでは、最も好成績を残していたテウニッセンや石畳のレースを得意とするトゥーンスが抜けた穴は大きい。ソーレン・クラークアンデルセンがエース格として走ることになるだろうが、アシスト要員が若手中心となり、十分な戦力ではない。
アルデンヌクラシックでは、マシューズを筆頭に可能性があるが、やはりグランツールを主軸におくチームにおいてはアルデンヌクラシックに戦力を回す余裕はなさそうだ。
スプリントはマシューズ、ヴァルシャイド、カンターらがエーススプリンターを務めるだろう。タイムトライアルに強いメンバーが揃っているため、その気になれば、強力なスプリントトレインを組むことができるだろう。
下部組織から3人昇格させるなど、徹底的に若手中心のメンバー構成となっており、平均年齢はワールドチームのなかで最も若い。チームはメインスポンサーのサンウェブ社と無期限スポンサー契約を結んでいるため、思い切った育成計画を立てることができるのだろう。
(おまけ)サイバナの推しメン:クルフェルス
長年にわたってチームサンウェブのキャプテンを務めてきた選手だ。当初は2018年限りでの引退を表明していた。デュムランなどの総合系選手だけでなく、ソーレン・クラークアンデルセンなどワンデーレースにも強い選手がのびのびと走っている姿に感化され、「今引退するのはもったいないと思うようになった。それくらい今のチーム状況が良いので、もっと走りたいと思った」と語り、引退を撤回してもう1年走ることになった。
クルフェルスは2008年にスキル・シマノでプロデビューを飾った。当時27歳とプロ選手としてはかなり遅いプロ入りだった。スキル・シマノは日本人と若手オランダ人が中心のチームで、比較的年上で落ち着いた物腰のクルフェルスは自然とチームのキャプテンを務めるようになっていた。
クルフェルスは不断の努力によって、長時間巡航に耐えうる強靭な身体を作り上げていた。しかし、逆にいえばそれだけ。スプリント力は平凡、上りも得意ではなく、これといった何か特別な力があるわけではなかった。だからこそ、いつも考えてレースをしていた。そうして、レース展開を読む力を身につけた。それがクルフェルスを10年以上にわたってプロとして活躍させる武器となった。
若手選手はわからないことがあれば、なんでもクルフェルスに聞いていたという。18のワールドチームのなかで、所属選手の最も平均年齢が低いチームだからこそ、クルフェルスの力はまだまだ必要とされている。