サイバナ

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コラム ツアー・ダウンアンダー2017

使えるものは全て使うカレブ・ユアンの理詰めのスプリントとは?

カレブ・ユアン、ステージ3勝目。

想像を越えるユアンの活躍に、ただただ驚嘆するばかりである。

シーズン開幕戦であるツアー・ダウンアンダーは、多くの選手にとってオフシーズンが明けてからは、初めての真剣勝負となるレースだ。

しかし、カレブ・ユアンを含むオーストラリア人選手たちは、ツアー・ダウンアンダーの前にベイクラシックシリーズ、国内クリテリウム選手権、国内ロード選手権といった真剣勝負のレースをいくつも走っている。脚の仕上がり具合が、他の選手たちとは一線を画していると言えよう。

と言った要素を加味しても、ツアー・ダウンアンダーでのユアンは強い。日に日に調子を上げてくるライバルたちを寄せ付けない走りを、第4ステージでも見せていたからだ。

いったいユアンの強さの秘訣はどこにあるのか?

ユアンのスプリントを徹底分析しようと思う。

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秘訣その1〜超低空スプリント〜

異様なまでの前傾姿勢でスプリントをすることで、極限まで空気抵抗を減らしている。身長165cmと元々小さな体格を、逆に効果的に活用しているのだ。

より前傾を深くすることで、前投影面積を減らすことが出来る。こちらの記事によると、「前投影面積を10%減らすことで、14秒間スプリントし場合に3mの差がつく」と書いてある。深い前傾姿勢によるエアロダイナミクス効果は絶大のようだ。

こちらの動画を参照していただきたい。

地面に対してほぼ並行になるほどに、深い前傾姿勢を見せている。

前輪への荷重が大きくなってしまうため、後輪が浮いてしまわないように車体を重くしたり、最も空力の良い姿勢を生み出すために、風洞実験を繰り返して今の超低空スプリントにたどり着いたそうだ。

マルセル・キッテルやアンドレ・グライペルのようなパワー型スプリンターに匹敵する出力をユアンは出すことが出来ない。限られたパワーを有効活用するために、自分自身の空気抵抗を極限まで減らすことを試みたのだ。

だが、ユアンの超低空スプリントには致命的な弱点が存在する。

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The low-down on how Caleb Ewan plans to beat the world’s fastest sprintersより

これほどまでに深い前傾姿勢を取ることで極端な前荷重となることと、視界が限られてしまうことにより、両隣に他の選手がいたり、前方に選手がいる状態では超低空スプリントを行うことが出来ないのだ。

したがって、ユアンの超低空スプリントは、空気抵抗を減らすことで生み出したスピードを活かして、ライバルたちの前に出ていくスプリントではなく、ライバルたちより先に前に出た状態で、追いつかれないためのスピードを生み出す方法だと言えよう。

つまり、ユアンが先頭でスプリントを開始出来るポジション取りが何よりも大事になってくるのだ。

秘訣その2〜XXSサイズのバイク〜

ポジション取りにも、スプリントにも関わってくるポイントとして、ユアンの乗機であるバイクに注目したい。

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Gallery: Caleb Ewan's Scott Foilより

51cmサイズのScott Foil RCを操り、ユアンはレースに出場している。ステムが140mmのものを使っていて、前に突出している印象を受ける。

比較として、身長183cmのゲラント・トーマスのPinarello Dogma F10は、Sizeが54・ステムは131mmのものを使用している。

他社メーカー同士で単純な比較にはならずとも、ユアンのステムの突出具合が伝わるかと思う。深い前傾姿勢による、超低空スプリントを支えるためには長いステムが必要不可欠なのだろう。

そして、単純にサイズが小さなバイクに乗ることで、他の選手より小回りが利くようになっている。わずかな差だが、全長の短さがユアンのポジション取りに優位に作用していると思われるからだ。

詳細は後ほど説明する。

秘訣その3〜ドラフティング効果を受けやすい〜

ピープルズ・チョイス・クラシックでは、身長192cmのロジャー・クルーゲがユアンをリードアウトしていた。

風除けとなる前を走る選手が大きければ大きいほど、後ろにつく選手はドラフティング効果を受けやすくなる。同じように、後ろにつく選手が小さければ小さいほど、ドラフティング効果を受けやすくなるのだ。

身長180cmを越えるような大型スプリンターたちと比較して、身長165cmのユアンはより少ない労力で、スプリント開始地点まで脚を溜めることが出来る。実際、数字にしたらわずかな違いかもしれないが、ユアンのこのわずかな差を積み上げて、大型スプリンターに対抗しようとしているのだ。

秘訣その4〜ユアンをマークする選手はドラフティング効果を受けにくい〜

秘訣その3の逆のことである。

集団スプリントでは、有力選手の背後にポジション取りすることが重要となる。先頭に出そうな選手をマークして、ギリギリまで脚を溜めてから飛び出し、マークしていた選手を差し込んで勝利するシーンは、度々目にしていることだろう。

ユアンは身長165cmしかないため、ユアンをマークした選手はドラフティング効果を受けにくくなっている。ユアンをマークすることで余計に脚を消耗してしまうのだ。

ユアンは高いドラフティング効果を受けつつ、ユアンをマークする選手に対してはドラフティング効果を減らし、相対的にユアンが大きなアドバンテージを築くという算段だ。

秘訣その5〜ユアンにしか出来ないライン取り〜

ユアン自身の小さな体格に加えて、秘訣その2の小さなバイクが、ここで活きてくる。

ツアー・ダウンアンダー第4ステージのゴールスプリントを振り返ってみる。

※スプリントシーンは4分05秒付近から

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ユアンはチームスカイのダニー・ファンポッペルをマークしていた。ファンポッペルの前を走るルーク・ロウがリードアウトを終えるタイミングで、右から上がってきたトレック・セガフレードのエドワード・トインズをブロックした。

トインズは仕事を終え、スピードを落としているルーク・ロウに引っかかってしまい、スプリント争いから脱落してしまう。

しかし、ユアンのポジションは、前にファンポッペル、左にアルント、右に壁という非常に狭い場所となっている。

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そこで、ユアンはファンポッペルとアルントの間を狙った。

ファンポッペルがスプリントを開始するタイミングで、アルントの前にバイクをねじ込んでいった。

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この動きにアルントは思わず押し出されてしまった。

アルントの背後で、ユアンをマークしていたサガンはアルントの左側からスプリントを開始することが出来ず、アルントの右側から行かねばならなくなった。

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ユアンがアルントをかわして前に出るころには、サガンとは車体1台分のリードを築くことに成功している。

なおかつ、ファンポッペルとアルントの間はサガンが通るだけのスペースはなく、サガンはフルスロットルでのスプリントを出来ない状態だ。

この時点で勝負ありだった。ファンポッペルをかわして先頭に立ったユアンは、得意の超低空スプリントを繰り出し、サガンの猛追を振り切ってフィニッシュしたのだ。

ユアンの小さい体格を活かして、狭いスペースから有利なポジションを築く。ユアンにしか出来ないライン取りが絶妙だった。

サガンとは車体1台の差があったにもかかわらず、フィニッシュ地点ではユアンに肉薄していた。それほど、サガンのパワーは凄まじいということだ。

凄まじいパワーに対抗するために、ユアンは体格・空気抵抗・バイクのサイズ・ライバルたちの動き、全てを自分に有利に活かして、勝利をあげているのだ。

ユアンのスプリントは限りなく合理的で、頭脳的である。

小さな工夫の積み重ねによって、体格に勝るパワースプリンターたちと互角以上の戦いを繰り広げているのだ。

レース後に、サガンは「まだ長いシーズンの始まりだ。」と言っていた。

第4ステージのユアンの勝利は、サガンのコンディションがトップの状態ではないことだけが原因ではないと、筆者は見ている。ユアンが頭脳的にサガンを封じ込んでの勝利ではないかと思う。

どちらにせよ、この先がとても楽しみである。

ユアンとタイプが似ているマーク・カヴェンディッシュや、キッテルやグライペルら超パワー系スプリンター、そしてトップコンディションの世界チャンピオン・サガンとのスプリントバトルが早く見たい。次にトップスプリンターたちが一同に集う場は、ツール・ド・フランスになるだろうか。

ユアンの理詰めのスプリントは、ツールを制することが出来るだろうか。決戦の時を待ちたい。

Rendez-Vous sur le vélo…

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