サイバナ

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コラム ブエルタ・ア・エスパーニャ2017

チームの未来を懸けたキャノンデール・ドラパックのクラウドファンディングとは?

2017/08/29

キャノンデール・ドラパックが窮地に陥っている。

期待されていた新スポンサーが撤退したために、来シーズンの予算が700万USドル(約7億7千万円)不足しているというのだ。この問題を早急に解決しないと、来シーズン以降のワールドツアーライセンス発行ができない状況に追い込まれている。

そのため、所属選手・スタッフに対して、来シーズン以降のチーム存続が不確定な状況であることを説明し、現在の契約の有無にかかわらず、移籍を希望する選手・スタッフは他のチームと交渉してよいとの通告を出したようだ。なお、キャノンデールには、フルタイムで働くスタッフは100人ほどいるとのことだ。

※参考:Cannondale-Drapac uncertain to continue in 2018 - Cyclingnews.com

※参考:【翻訳】新スポンサー撤退の影響に関するキャノンデール公式発表 - 溜めず、恐れず。

これは異例の事態である。
昨シーズンオフには、ランプレ・メリダが中国企業のTJスポーツに買収され、「プロジェクトTJスポーツ」として新チームが誕生する予定であったが、11月には書類不備が発覚しワールドツアーライセンス発行が差し止められ、土壇場になってスポンサーが見つからなかったという理由でTJスポーツは撤退。かわって中東のアブダビがスポンサーになるということで、ワールドツアーライセンス発行が認められ、現在のUAE・チームエミレーツに至るという出来事があった。

※参考:中国初のワールドチーム誕生とは一体何だったのか? - サイバナ

一連のTJスポーツ騒動の際でも、契約中の選手の移籍は容認していなかった。むしろ、騒動の最中にも戦力補強もしていたし、表向きにはチームとして活動していたように見える。

ところが、キャノンデールの場合は、ここまで新たな選手の獲得はゼロであり、移籍を容認する声明も発表しているのだ。選手を思うからこそ、早めに他のチームと交渉できるように計らったのだろうが、チームの財政状況はのっぴきならないほど、極めて重大な状況に追い込まれているのだ。

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クラウドファンディングによる支援を募る

そこで、GMであるジョナサン・ヴォーターズは奥の手ともいえる手段を講じた。

クラウドファンディングによって、チームの活動資金を捻出しようというのだ。

クラウドファンディングへの応募手順は以下の通りだ。

1、上記ツイートのリンクをクリックし、画面下部の「REGISTER YOUR INTEREST」をクリック
2、氏名・メールアドレス・金額(最低25ドルから)を入力
3、後日、入金方法などがメールに届く
4、実際に入金(※おそらくクレジットカード払いか、ペイパル等の送金システムの利用が必要か)

クラウドファンディングの募集から1日経って、ジョナサン・ヴォーターズは予想以上に、支援の意思表示をする人々が多いことを喜んでいるようだった。

さらに、支援金額も最低100ドルから、25ドルへと引き下げられ、より支援しやすくなったといえよう。

キャノンデール・ドラパックを応援している方、サイクルロードレース界を案じる方はぜひクラウドファンディングに応募してほしいと、個人的には願っている。

クラウドファンディングは名案なのか?

だが、今回のクラウドファンディングは、その場凌ぎの資金調達に見えなくもない。2019年シーズン以降も継続的に活動していくためには、安定して資金を投入してくれる大口スポンサーの存在が必要不可欠だ。当面の活動資金を確保できたとしても、ヴォーターズGMは再びスポンサー探しに奔走することになるだろう。

そして、来年以降も再び資金不足に陥った時に、再びクラウドファンディングを利用して必要な資金が集まるとは限らない。むしろ、何度も何度もクラウドファンディングを募ろうものなら、「本当にスポンサーを探しているのか?」と疑われる可能性すらある。

だが、筆者はクラウドファンディングを活用して、世界中から億単位のお金が集まって、チームが存続する事例をつくることに大きな意義があると考えている。

キャノンデール・ドラパックが募っているクラウドファンディングは、クラウドファンディングの名を題しているものの、具体的な見返りは「チームの存続」のみだ。一般的なクラウドファンディングでは、「◯◯という画期的な製品をつくりたいけど、お金がない。クラウドファンディングで資金提供された方には、完成した製品を提供します。応募は一口××円から。」というような要領で、具体的な価値の提供に対して、投資するような形式をとっている。もちろん、予定通り製品が完成しないこともあり、投じた資金が無駄になる可能性もある。クラウドファンディングのリスクの一つだといえよう。

今回のキャノンデールの件でも、必要額が集まったとしても、チームが存続できるとは限らない。再び別のスポンサーが突然資金提供を中止する可能性だってゼロではないからだ。むろん、この点については、「ここで明確にしたいことは、現在キャノンデールの全てのスポンサーとパートナー(キャノンデール、ドラパック、オース、POC)は、2018年も引き続き支援してくれることを約束してくれました。(【翻訳】新スポンサー撤退の影響に関するキャノンデール公式発表)より抜粋」とチームも発表しているため、不足額さえ集まればチームが存続できると考えてよいだろう。

つまり、キャノンデールのクラウドファンディングは、もはや寄付みたいなものだ。実際に、キャノンデールのクラウドファンディング用のサイトにも「fundraiser(募金活動)」という表現を使っているため、実質的には募金であり寄付であり、投資ではない。

Twitterにも書いたが、寄付したい人がすればいいと思うが、筆者はキャノンデールの存続可否の点だけで寄付するかどうか決めるのは、もったいないと考えている。

自転車界はクラウドファンディングを有効活用できるか

より一般的な意味での「クラウドファンディング」を、サイクルロードレース界が活用していく第一歩として、今回のキャノンデールの成否は重要な意味を持つと考えている。

仮に700万ドル調達することに成功したとして、出資者は世界中に点在することになるだろう。キャノンデールの登録国であるアメリカはもちろん、ヨーロッパ諸国だけでなく、日本をはじめとしたアジア諸国、オーストラリア・ニュージーランドもサイクルロードレースは盛んな国だし、今ではアフリカにも展開している。Twitterで告知しただけで、世界中から活動資金の調達が可能だという事実をつくることに大きな意味がある。

その上で、今後は具体的な価値の提供を約束して、資金提供を募るのだ。

例えば、
・レース賞金を、出資者に分配する
・選手との交流イベントへの参加権
・チームジャージをプレゼント
・特定のレースに、ジャージに出資者名がプリントされる
などの特典をつけて、出資を募るのだ。

簡単に言えば、ファンクラブのようなものであるが、賞金の分配などうまくいけば、出資額以上のリターンが望めるようなシステムにすれば、そのチームのファンに限らず、投資家たちによる支援を引き出すことも可能かもしれない。

実際にTeam UKYO主宰の片山右京が監督を務める「GOODSMILE RACING(通称:GSR)」は、「個人スポンサー制度」を用いて活動資金を生み出している。

※参考:個人スポンサー制度(2017)
- GOODSMILE RACING公式サイト

現状のプロレースチームの運営費の大半は、スポンサー収入に依存している。莫大な放映権料は、ほとんどチームには分配されずにレースの運営組織に吸い込まれている。ゆえに、新たな収入源の確保を目的に、ハンマーシリーズが開催された。クラウドファンディングも新たな収入源になる可能性を秘めているのではないだろうか。

※参考:ハンマーシリーズと弱虫ペダル。似ているのはルールだけじゃない。 - サイバナ

だからこそ、今回のキャノンデールのクラウドファンディングは、ぜひ成功を収めてほしいと思う。と同時に、クラウドファンディングを募ればOK、というところに甘んじることなく、新たな収益源とするための創意工夫を見ていきたい。UCIやASOなどの運営組織はチームを守るためには動いてくれない。自分たちの身は、自分たちで守るしかないのが、現状だからだ…。

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ブエルタ・ア・エスパーニャ第9ステージでは、メイン集団をキャノンデール・ドラパックの選手たちが牽引していた。クラウドファンディングのアピールのためだけでなく、チーム解散の危機は決して他人事ではないということを集団に示していたようにも見えた。

さらに、チームのエースであり、ツール・ド・フランス総合2位となったリゴベルト・ウランは「他のチームとの交渉は2週間待つ」と、窮地にもかかわらず、チームへの恩義を見せた。

ピークを過ぎた選手だと思われていたウランを再生できたのは、キャノンデールの手腕だろう。
あれだけ終わったと思われたピエール・ロランも、今年のジロ・デ・イタリアで復活を遂げた。
昨年のジャパンカップの覇者はダヴィデ・ヴィレッラで、現在ブエルタでは山岳賞ジャージをキープしている。
セプ・ファンマルクは、移籍してから勝利を収められていないが、キャノンデール移籍2年目には結果が出る傾向にあるので、もう1年待ちたい。
何より、チーム・スリップストリーム時代から、サイクルロードレースに心血注いできたジョナサン・ヴォーターズの情熱を、こんなところで絶やして欲しくない。

キャノンデールは良いチームだ。
もう1年と言わず、ずっと見ていきたいチームなのだ。

チームの存続を懸けたクラウドファンディングを通じて、サイクルロードレース界の新たな未来を切り拓くのだ。

Rendez-Vous sur le vélo…

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