サイバナ

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コラム

ワウト・ポエルスも野心高らかに。チームスカイはトリプルツールを成し遂げることが出来るか?

以前、『ゲラント・トーマスの野心がチームスカイを『世界一のスポーツチーム』に導く』というコラムを書いた。

クリス・フルームのツール・ド・フランス3度の総合優勝を支えた、フルームにとって極めて重要なアシストであるゲラント・トーマスが、グランツール総合優勝を目指したいと、高らかに野心を公言したのだった。

トーマスがフルームに匹敵するグランツールレーサーとなれば、デイブ・ブレイルスフォードが掲げる『世界一のスポーツチーム』というビジョン実現に大きく近づくことだろう。

だが、トーマスだけでなく、チームスカイにはもう一人、隠しきれない野心を持つ男がいる。

2015・2016年とフルームのツール2連覇の立役者と言っても過言ではないオランダ人クライマー、ワウト・ポエルスだ。

「2017年はパリ〜ニースとツール・ド・スイスで総合を狙う。もし、それらのレースで良い結果が出せれば、グランツールでも上位が狙えると思う」と語っていた。控えめだが確かな自信と共に己の野心を語っていた。

今回は、ポエルスの話をしようと思う。

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オランダで生まれ育ち、オランダのチームでプロデビュー

1987年10月1日、オランダ南部のリンベルフ州で生まれた。リンベルフ州はアムステルゴールドレースが開催されるマーストリヒトが州都である地域だ。

後のヴァカンソレイユチームとなる、フォンダスP3・トランスファーチームというコンチネンタルチームで、プロデビューを果たした。ヴァカンソレイユの誕生は2009年のことで、設立当初はプロコンチネンタルチームであったが、2011年にワールドチームに昇格している。

当時のヴァカンソレイユというチームは、グランツールで総合上位を狙うというよりは、逃げに選手を送ってステージ優勝を狙ったり、ステイン・デヴォルデルやビヨーン・ルークマンスらクラシックスペシャリストをエースとしたチームだった。

クライマーであるポエルスの役割はクラシックレースでのアシストとしては物足りなく、グランツールのアタッカーとしてはパンチ力が足りないが、登りには強いので、気付けば総合上位にいるようなタイプの選手だった。

2011年ブエルタ・ア・エスパーニャでは、自己最高の総合17位でフィニッシュしている。

そんなポエルスが最初に名前を売った機会は、残念ながら走りではなく大落車に巻き込まれて大怪我をしたことだった。

2012年ツール・ド・フランス第6ステージで、フランク・シュレク、ロバート・ヘーシンク、アレハンドロ・バルベルデ、バウケ・モレマなど有力選手を含む大クラッシュが発生した。

ポエルスはこの落車に巻き込まれてしまった。激しいクラッシュにより、ここに詳細を書くことをはばかられるくらいの重傷を負ってしまった。選手生命のみならず、自身の命すら危ぶまれてもおかしくない重大な怪我だ。

にもかかわらず、落車直後のポエルスは再びバイクに乗って走り出した。何たる精神力と言うべきだろうか、プロサイクリストのタフさには心底驚かされる。と同時に、あまり無茶をしすぎると、後の選手人生のみならず彼自身の日常生活に支障をきたす可能性もある。精神力・タフさに感服しつつも自重してもらいたいという気持ちも存在する。

ポエルスは重傷を負いながらも、アシスト選手として役割を全うするために、フィニッシュを目指していた。しかし、落車地点から10kmほど走行したところでバイクを降りてリタイアした。その後、レース復帰まで半年以上の時を要することになる。それほどの重傷だったのだ。

この一件でポエルスは、とてつもない重傷を負いながら自転車で10km走った男として脚光を浴びることになった。

怪我から復帰した2013年ツールでは総合28位で完走したが、他に目立った戦績をあげることは出来なかった。ヴァカンソレイユもチーム解散が決まってしまい、ポエルスは長年親しんだオランダチームを離れ、ベルギーのオメガファルマ・クイックステップへと移籍する。

クイックステップでクライマーの才能が開花し始める

ブエルタ・アル・パイス・バスコでワールドツアー初勝利となるステージ優勝を遂げる。

確かな手応えと共に、初めて出場したジロ・デ・イタリアでは、エースのリゴベルト・ウランの山岳アシストとして活躍した。ポエルス自身は総合21位で完走を果たし、ウランを総合2位に押し上げたのだ。

同年のブエルタにも出場して完走。貴重な山岳アシストとして、通年で存在感を示した年だった。

この活躍に目をつけたのが、チームスカイだった。2014年オフにポエルスはチームスカイと2年契約を締結して移籍する。

ブラッドリー・ウィギンスからクリス・フルームのチームへと変貌を遂げている最中のチームスカイは、強力な山岳アシストを求めていた。ポエルスだけでなく、ティンコフ・サクソからニコラス・ロッシュを、チーム・ネットアップ・エンデューラからレオポルド・ケーニッヒも獲得していた。

同年のツールには、フルーム、ポエルス、ロッシュ、ケーニッヒに加えて、トーマスとリッチー・ポートも出場し、山岳での支配的な統制力を発揮して、盤石の体制でフルームはツールを制した。

ポエルス自身もワールドツアーのティレーノ〜アドリアティコと、HCカテゴリーのツアー・オブ・ブリテンでそれぞれステージ1勝を飾っている。

最強スカイ山岳トレインの一角に名を連ねるほどの、強力無比なクライマーに成長したと誰もが思ったが、ポエルスの進化はとどまることを知らなかった。

2016年、自身最高のシーズンを過ごす

自身の開幕戦となったボルタ・ア・バレンシアナでステージ2勝をあげ総合優勝を果たすと、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでもステージ1勝をあげる。

バスク、バレンシア、カタルーニャとスペイン内の異なる地域で結果を出していることから、どうやらポエルスはスペインのレースと相性が良いのだろう。

春のクラシックシーズンに入ると、ステージレーサー揃いのチームスカイにあって、ポエルスはクラシックレースのエース格としてアルデンヌクラシックに出場する。

初戦のアムステルゴールドレースは41位に終わったが、フレーシュ・ワロンヌは4位と好成績を収める。

そして、リエージュ~バストーニュ~リエージュでは、ついに自身初となるワンデーレースでの優勝を果たす。それも最古のクラシックと呼ばれ、春のクラシックシーズンの締めとなる伝統の一戦を制したことは、とても栄誉なことであり、ポエルスは己の実力に自信を深めたに違いない。

好調を維持したまま、フルームの3度目の総合優勝をアシストするために、ツール・ド・フランスに参戦する。

ツールでのポエルスの活躍は周知の通りである。山岳では、ポエルスが刻むスピードに、ライバルチームのエースたちは全く手出しすることが出来なかった。

アスパン峠、ペイルスールド峠、アンドラ・アルカリス、コロンビエ峠、フィノー・エモッソン、名だたる山岳でポエルスは誰よりも力強く集団の先頭で走っていた。第19ステージでは落車したフルームを献身的にアシストして、ライバル勢から失ったタイムはわずか10秒に押さえ込んだ。2016年ツールの陰のMVPは間違いなくポエルスだった。

特にかつてのチームメイトであるリッチー・ポートを押さえ込む働きをしたことで、ポエルスの中でポートを抑えることが出来るなら、自分も総合上位を狙えるのでは?と思っても不思議ではない。

2017年はグランツールレーサーになるためのステップの年にしたいと語る

とはいえ、チームスカイの最大の目標はフルームによるツール・ド・フランスの3連覇である。MVP級の活躍をしたポエルスは、ツールでのフルームの護衛が最重要ミッションとなる。

そして、ポエルス自身も「ツールでアシストした後、ブエルタをエースとして走ることは難しい」と語っている。それほどにツールでの消耗は激しいと言えよう。

一方で、世界一のチームを目指すチームスカイにとって、ジロとブエルタで総合優勝を狙うという新たな目標が生まれている。

2015年のジロでは、ミケル・ランダが総合3位に入る活躍を見せたが、2016年は途中リタイアとなってしまい、セバスチャン・エナオの総合17位がチームとして最高順位だった。

ランダの単独エースというリスクを軽減するために、ランダと共にダブルエースとして走れる選手を派遣する方針を決めた。そこで、ダブルエースとして走る選手として、トーマスとポエルスが立候補したのだった。

過去の実績、この2年間のツールでの働きぶりを考えると、ポエルスは最高の状態でツールでアシスト選手として起用したかったのだろう。トーマスがジロに派遣されることとなった。

だが、ポエルスはグランツールでの総合優勝を諦めたわけではない。冒頭の通り、パリ〜ニースとツール・ド・スイスでは総合優勝を狙って、エースとして走ることになるそうだ。

昨年、トーマスがパリ〜ニース総合優勝を決め、今年のジロ出場を決めたように、ポエルスもパリ〜ニースとツール・ド・スイスで好成績を残すことが出来れば、グランツールにエースとして臨むことが出来るのではないだろうか。

ブレイルスフォードがどんな青写真を描いているのかわからないが、わたしにはトーマスでジロを制し、フルームでツールを制し、ポエルスでブエルタを制し、トリプルツールを達成しようとしているのではないかと見ている。

グランツール適性を測る試金石となるであろう、ステージレースでのポエルスの動向に注目したいと思う。

Rendez-Vous sur le vélo…

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