世界最大のサイクルロードレースである『ツール・ド・フランス』。
ファンでなくとも、その名を聞いたことがあるであろうレースは、全世界の注目度が他のレースとは桁違いに大きい。
世界190ヶ国で放送され、視聴者数は35億人にのぼるとも言われており、総観客数は1500万を動員する世界最大のスポーツイベントでもある。
そのため、ツール・ド・フランスで活躍することは他のレースで活躍する何倍・何十倍もの経済効果や広告効果があるのだ。
ツールを一年の最大の目標としているチームは非常に多い。
2017年大会のコースプレビューを、全3回にわたってお届けしたい。
まずは、初日から最初の1回目の休息日まで、9ステージを紹介する。
ツール・ド・フランス2017コースプレビュー【第1週目】
7/1(土) 第1ステージ(個人TT):デュッセルドルフ〜デュッセルドルフ(14km)
今年のグランデパールは、ドイツ・デュッセルドルフだ。
1987年、まだ東西ドイツに分かれていた頃の西ドイツ・ベルリンがグランデパールとなった以来のドイツでの開幕となる。
なお、1987年大会はベルナール・イノーが引退、グレッグ・レモンが不慮の事故により欠場するなか、ステファン・ロッシュが総合優勝を果たしている。
このロッシュとは、BMCレーシングのニコラス・ロッシュのお父さんである。
コースはデュッセルドルフ市内、ライン川のほとりを走るコースとなっていて、2度にわたって川を横切る橋を渡ることが特徴だ。
橋の上り下り以外はいたって平坦路である。
母国開催でマイヨジョーヌ着用を狙っているであろう世界チャンピオンのトニ・マルティンに注目だ。
7/2(日) 第2ステージ:デュッセルドルフ〜リエージュ(203.5km)
デュッセルドルフをスタートし、隣国ベルギーのリエージュへとフィニッシュするステージだ。
リエージュと言えば、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに代表されるアルデンヌクラシックの開催地。
クライマー向きのアップダウンの激しい丘陵地帯を走るかと思いきや、全体的にほぼ平坦路となっており、フィニッシュ地点もスプリンターも安心のど平坦路である。
マイヨヴェール争いの初戦を飾る、スプリンターたちの勇姿に注目だ。
7/3(月) 第3ステージ:ヴェルヴィエ〜ロンウィ(212.5km)
ベルギーを出発し、ルクセンブルクを北から南へ突っ切って、最後はフランス国内のロンウィへとフィニッシュする。
アルデンヌクラシックを彷彿とさせる、序盤から終盤までひたすら細かいアップダウンが続くタフなステージだ。
最大の特徴はフィニッシュ地点のロンウィの上りである。
距離は1.6kmながら、平均勾配5.8%・最大勾配11%の区間が登場し、ピュアスプリンターの進入を拒んでいる。
昨年のツールでも、似たようなステージがあり、ペーター・サガンが制し、2位にはジュリアン・アラフィリップが入った。
アラフィリップは残念ながら欠場だが、サガンやマイケル・マシューズといった、パンチャー系のスプリンターに勝機が訪れやすいレイアウトだと言えよう。
7/4(火) 第4ステージ:モンドルフ・レ・バン〜ヴィッテル(207.5km)
ルクセンブルク南部の街・モンドルフ・レ・バンをスタートし、ひたすら南下してヴィッテルへとたどり着く。
スプリンターのためのステージであり、総合勢にとっては繋ぎの平坦ステージとなっている。
フィニッシュ地点は、若干上り勾配となっているが、ピュアスプリンターを含めた集団スプリント勝負が繰り広げられることだろう。
7/5(水) 第5ステージ:ヴィッテル〜ラ・プロンシュ・デ・ベル・フィーユ(160.5km)
早くも第5ステージにして、最初の山頂フィニッシュステージが登場する。
ヴォージュ山脈に位置するラ・プロンシュ・デ・ベル・フィーユへの上りは、登坂距離5.9km・平均勾配8.5%となっており、ラスト数百mは最大勾配20%の激坂となっている。
完全にピュアクライマー向きの爆発力が問われるステージだ。
言い換えれば、ペース走行によるヒルクライムが得意な選手を潰しにかかっているステージだと言えよう。
このステージの勝者が、マイヨジョーヌを獲得する可能性が高い。
7/6(木) 第6ステージ:ヴズール~トロワ(216km)
ヴォージュ山脈で最初の総合バトルが行われた後は、次なる戦いの舞台となるジュラ山脈へ向かって移動する。
したがって、間は平坦路が続くスプリントステージが設置されやすい。
途中、多少のアップダウンはあるものの完全にピュアスプリンター向きのステージだ。
フィニッシュ地点のトロワは、完全にフラットな地形にはなっているものの、市街地内を走るためコーナーが多く含まれている。
連続するコーナーでのスプリンターチームのポジション争いが鍵を握るだろう。
7/7(金) 第7ステージ:トロワ~ニュイ・サン・ジョルジュ(213.5km)
ツールで初めてフィニッシュ地点に設定されたニュイ・サン・ジョルジュへ至る、こちらもスプリンター向きの平坦ステージだ。
フィニッシュラインに至る最終ストレートはコーナーの少ない直線路だ。
純然たるハイスピードバトルは見応えたっぷりとなりそうだ。
7/8(土) 第8ステージ:ドール~スタティオン・レ・ルス(187.5km)
プロトン一行は、スイスとの国境付近の街・ルスへ到達する。
ジュラ山脈の山岳地帯で総合バトルの第2ラウンドが開始されるだろう。
まずは1級山岳ラ・コンブ・ド・レジア・レ・モリュヌの上りが見どころになる。
登坂距離11.7km・平均勾配6.4%と、長さはあるものの勾配は控えめだ。
控えめと言っても今年のツールの中では、という注釈つきだが。
上りきったあともアップダウンのある道のりを11kmほど走ってフィニッシュ地点に到達する。
逃げ切りが決まりやすいレイアウトに見える。
総合勢はタイム差をつけるというよりは1級山岳でライバルたちの調子を見極める一日になるかもしれない。
ここで遅れるようでは、総合上位は厳しいと言わざるを得ない。
7/9(日) 第9ステージ:ナンテュア~シャンベリー(181.5km)
今大会のクイーンステージと目される、前半最大の山場となる超難関ステージだ。
この狂ったコースレイアウトをつぶさに観察してほしい。
スタート直後、わずか3.5km地点に2級山岳の頂上が設定され、続けざまに3級山岳が登場する、あまりにも厳しすぎる序盤となっている。
そして、何と言っても超級山岳3連発という、常人には理解しがたい派手なコースであることだ。
1つ目の超級山岳ラ・ビッシュ峠は登坂距離10.5km・平均勾配9%となっている。
上り始めから山頂付近まで延々と9%前後の傾斜が続く、非常にタフな坂だ。
ダウンヒルを経て、次に現れるは登坂距離8.5km・平均勾配9.9%のグラン・コロンビエだ。
そして、このグラン・コロンビエには最大勾配22%に達する激坂区間が登場する。
まだ100km弱レースを残してはいるが、もう既にエースをサポートするアシスト陣は壊滅の様相を呈しているだろう。
グラン・コロンビエを越えてから、レースを落ち着かせようとペースを緩めるのか、ライバルたちに攻撃を続けるためにハイペースを刻むのか。
エース級のアシストを揃えて、どれだけ残すことが出来るかが勝負の分かれ目になりかねない。
残り35km地点から始まる超級山岳モン・デュ・シャは、クリテリウム・デュ・ドーフィネでも登場した山だ。
登坂距離8.7km・平均勾配10.3%・最大勾配15%となっている。
その後はテクニカルなダウンヒルをこなし、13kmほど走ってようやくフィニッシュ地点へとたどり着く。
ドーフィネでは、ファビオ・アルが最も早くモン・デュ・シャを駆け上がっていた。
ヤコブ・フグルサング、クリス・フルーム、リッチー・ポートも十分に対応できていた上に、フルームのダウンヒルは目を見張るものがあった。
3つの超級山岳を越える力に加え、最後のダウンヒルをこなす力が無ければライバルたちにタイム差をつけることは難しいだろう。
いずれにせよ、激しく見応えのあるマイヨジョーヌを巡る戦いを見ることが出来るだろう。
スタート開始からJ Sportsの中継があることに感謝したい。
第1〜9ステージまとめ
個人TT、平坦スプリント、激坂フィニッシュ、超級山岳3連発など、例年になく激しいコースレイアウトになっていることが特徴な1周目だ。
主催者は波乱を巻き起こしたいのだろうが、思惑に反して落ち着いた展開になる可能性も無きにしもあらず。
もしもフルームの調子が悪ければ、絶対王者に容赦ない攻撃を仕掛ける荒れた展開になるのではないかと思う。
フルームを含め、チームスカイの鉄壁アシスト陣が万全であれば、落ち着いた展開になるだろう。
マイヨヴェール争いにおいては、ピュアスプリンター向きのステージが多い序盤でどれだけサガンからポイントを稼げるか注目したい。