IAMサイクリングがチームの解散を発表したのは、2016年5月23日のことです。
※IAM Cycling to fold at the end of 2016
2013年シーズンから、プロコンチネンタルチームとして発足したIAMサイクリングは、シーズン9勝をあげる活躍を見せ、2015年にはワールドツアーチームへ昇格を果たします。
2016年シーズンも、解散を発表する5月23日までにシーズン5勝をあげてはいましたが、年間予算が1200万ドルと言われている出資元のスポンサーを十分満足させる成績では無かったようです。
皮肉なことに、解散を決めてから7月のツール・ド・フランスではヤルリンソン・パンタノ(コロンビア)がステージ優勝、オリバー・ナーセン(ベルギー)が敢闘賞獲得、8・9月のブエルタ・ア・エスパーニャではヨーナス・ヴァンヘネヒテン(ベルギー)、マティアス・フランク(スイス)がステージ優勝、シモン・ペロー(スイス)が敢闘賞獲得するなど、グランツールで大活躍しています。
これまで数々のレースで、エースとして走ってきたマティアス・フランクは、ブエルタ・ア・エスパーニャでこれまでの総合レーサーのイメージを覆さんとばかりに、猛アタックを仕掛ける走りを見せています。
マティアス・フランクを突き動かすものは一体何なのか?
翌シーズンの移籍先を探すためか?
ヤルリンソン・パンタノは8月31日に、トレック・セガフレードと2年契約に合意したことを発表します。
※Jarlinson Pantano joins Trek-Segafredo for two years
ツールでステージ優勝をあげたのが、7月17日のことです。
トレック・セガフレードとの契約を獲得することが出来たのも、ツールでのステージ優勝の影響は大きかったに違いありません。
オリバー・ナーセンも8月8日にAG2Rへの移籍を発表します。
ヨーナス・ヴァンヘネヒテンはコフィディスに移籍ます。シモン・ペローは、今のところ来季の移籍先のアナウンスは確認されていません。
そのため、良い契約を取るために就活アタックを必死に結実させたと言えましょう。
マティアス・フランクも8月8日にAG2R・ラモンディアルとの2年契約を発表しました。
※MATHIAS FRANK S’ENGAGE AVEC L’ÉQUIPE AG2R LA MONDIALE
ポテンシャルの高い選手で、2015年ツール総合8位の実績を持った選手なので、確かに就活には困っていなかっただろうと思います。AG2Rでも、エースのロメン・バルデ(フランス)のアシストとして期待されているようです。
翌シーズンの契約を獲得するため、生活のためのモチベーションではないと言えましょう。
マティアス・フランクを突き動かすものは何か?
マティアス・フランクのブエルタでの走りを振り返ります。
最初に逃げたのは第6ステージです。
※【ブエルタ2016 第6ステージ結果速報】サイモン・イェーツ初勝利!グランツールで躍動する兄弟
レース終盤に、逃げ集団から単独でアタックを仕掛け独走逃げ切りを狙います。
しかし、後方に迫ったメイン集団からサイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)がキレ味鋭い飛び出しを見せ、フランクをかわしてステージ優勝をあげました。
続いては第9ステージです。
※【ブエルタ2016 第9ステージ結果速報】デラクルス歓喜の勝利&マイヨロホ獲得!
逃げにチームメイトのドリス・デヴェイナンス(ベルギー)も乗って、チームプレーでステージ優勝を狙いました。
逃げ集団からデヴェイナンスがアタックを仕掛けると、反応したのはダビド・デラクルス(スペイン、エティックス・クイックステップ)だけでした。
この2名を捉えようと追走集団が脚を使う間に、力を溜めていたマティアス・フランクがステージ優勝を狙う展開に持ち込みたかったのですが、ダビド・デラクルスが予想を上回る素晴らしい走りを見せ、追走集団を振り切ってステージ優勝をあげました。
そして、第17ステージで、また逃げに乗ります。
このステージで、ようやくフランクの執念が実り、ステージ優勝をあげるのです。
※【ブエルタ2016 第17ステージ結果速報】マティアス・フランク執念の逃げ切り勝利!
わたしには何が何でもステージ優勝をしたい!という一心で走っているように、見えました。
これまでの選手人生ではチームリーダーを担うことが多かったマティアス・フランク
2016年シーズンは未勝利で、最大の見せ場であるツール・ド・フランスでは途中リタイアと、良いところが全く無かったマティアス・フランク。それでも、チームリーダーとして、エースとして多くのレースを走ってきました。
ブエルタでの走りからは、『オレがエースなんだぞ!』という、心の声が聞こえたような気がします。それは驕りや強がりではなく、一人のプロ自転車選手としての矜持を感じました。
AG2Rとの契約発表の記者会見では『リーダーのロメン・バルデのために走ることを嬉しく思います。わたしは、かつてBMCレーシングでティージェイ・ヴァンガーデレンのために走ったこともありましたが、その役割は好きでした』と言っています。
しかし、ブエルタでの走りを見ている限りには、『アシストが好き』と言っている走り方ではありません。
マティアス・フランクが『オレをアシストしろ』と言うつもりは一切ないと思いますが、『オレだってこれだけ走れるんだぞ!』『オレの力を証明してやる』とAG2Rの首脳陣へ主張したかったのではないかと思いました。
そう思うと、第17ステージでゴールした時に頭を抱えるポーズは、『(オレの力を証明することが)本当に出来たよ…。信じられない…。』という感極まったポーズに見えます。
総合ライダーとしてではなく、アタッカーとしての新たな一面をアピールすることが出来たマティアス・フランクには、来年以降ステージレースだけでなく、ワンデーレースでの活躍も期待しています!
Rendez-vous sur le vélo!
(執筆時間:1時間15分)