ツール・ド・フランスの総合を狙う有力選手の状態について、クリテリウム・デュ・ドーフィネ、ツール・ド・スイス、ツアー・オブ・スロベニア、ルート・ド・オキシタニーと、ツール前哨戦と呼ばれるステージレースに出場した選手ごとにレビューしていきたいと思う。
第2回となる本稿では、ツール・ド・スイスとツアー・オブ・スロベニアに出場した選手を対象とした。
※第1回はこちら
ツール・ド・スイス
総合優勝、リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
活躍期待度:★★★★★
総合期待度:★★★★★
強いリッチーが帰ってきた!そう印象付けるほど、第6・7ステージの上りでの走りは強烈だった。
伝家の宝刀「ダンシングヒルクライム」の持続時間・距離は年々パワーアップしている。
本人いわく、まだトップコンディションではないということで、ツール本戦ではさらにライバルたちを完全に置き去りにするような鋭いアタックが期待できるだろう。
チームTT力も抜群のチームで、リッチー自身のTT力も平均以上のものがあるため、お世辞抜きで総合優勝候補の筆頭だといえよう。
総合2位、ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナプロチーム)
活躍期待度:★★★★☆
総合期待度:★★★★☆
第7ステージでポートの猛加速に一度はふるい落とされるも、ペース走行で追いついた唯一の選手だった。
それ以上にフルサングに驚かされたのは、最終ステージのタイムトライアルだ。トップから38秒遅れのステージ8位となり、ポートを上回る好走を見せたのだ。
元々タイムトライアルが得意な選手ではなかったが、今シーズンは個人TTステージで軒並み10位前後の”それなり”の走りができるようになった。ステージレースで負けないためには、TTでのタイムロスを最小限に留めることが重要だ。
去年はクリテリウム・デュ・ドーフィネで総合優勝、今年はスイスで総合2位と調整も万全。昨年のツールは落車で手首を骨折してリタイアとなった。今年は総合表彰台はもちろん、総合優勝を狙える実力を十二分に持ち合わせているといえよう。
総合3位、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスターチーム)
活躍期待度:★★★★★
総合期待度:★★★★★
第7ステージでは、最後の超級山岳のふもとからアタックを決行し、前待ちしていたアシストのサポートを受けつつも逃げ切ってステージ優勝を飾った。
やはり厳しい山岳での登坂力は、世界随一だった。
一方でタイムトライアルの出来があまりにも悪かった。トップから1分59秒差のステージ38位に沈んだことはマイナス材料だ。
第7ステージでポートから稼いだタイムは22秒だが、タイムトライアルではポートから55秒を失っており、収支はマイナスとなる。
とはいえグランツールの長丁場では、決定的な山岳ステージの数も多くなり、キンタナがタイムを稼ぐ機会も増えることだろう。総合優勝候補の一人であることに疑いはない。
総合5位、ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、チームサンウェブ)
活躍期待度:★★★☆☆
総合期待度:★★★★☆
昨年のブエルタで総合4位に入ったことで、グランツールレーサーとしての活躍が期待された今シーズン、初戦のアブダビツアーで総合2位に入ったのは良かったが、ティレーノ~アドリアティコで落車した際に鎖骨を骨折。
スイスはその復帰戦となったのだが、最終日の個人TTではケルデルマンらしからぬタイムでフィニッシュしており、まだまだ本調子ではないように見受けられた。
結果として長丁場のツールに良い意味でフレッシュな身体で参戦できて、勝負の3週目にトップコンディションに持って来やすいようにも思える。しかし、1週目のチームTTで高いパフォーマンスを出せるか、第9ステージの石畳コースへの準備はできているか、など不安材料が多い。
総合8位、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNL・ユンボ)
活躍期待度:★★★☆☆
総合期待度:★★★☆☆
2016年ジロでの鮮烈な活躍の残像があるため、どうしても物足りなく見えてしまうものの、ここ2年間のステージレースでの安定感は随一だといえよう。
4年以上ステージ勝利から遠ざかっているように、爆発的な登坂力はなくとも、安定した走りで気がつけば総合順位一桁台で完走している選手だ。
ツールではログリッチェと共にダブルエース体制が基本路線と思われる。ログリッチェの走りが未知数なだけに、経験量に勝り安定感のあるクライスヴァイクがチームにとって重要な戦力だといえよう。
総合13位、バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
活躍期待度:★★★☆☆
総合期待度:★★★★☆
スイスでのモレマは、可もなく不可もないといった印象の走りだった。
ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチーム・エミレーツ)が勝利した第5ステージの上りスプリントでは、遅れをとることなくステージ5位に入っており、コンディションが悪いようには見えなかった。
モレマは3週間のグランツールでは、最終週に調子を崩しがちなので、今の時点ではこれくらいの調子がちょうどいいのではないだろうか。
総合15位、ヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)
活躍期待度:★★★★☆
総合期待度:★★★☆☆
2年前のスイスでは個人TTステージを勝利して総合2位、昨年は個人TTステージで4位となり総合6位だった。
そのイメージがあるゆえに、2年前・昨年とは異なり平坦基調のコースだったとしても、今回の個人TTステージで37位という成績は物足りない。
一方で、集団スプリントとなった第3ステージでは、スピードの上がった集団を率いて、飛び出した選手を吸収するような集団けん引力も見せていたので、調子が悪いわけでもなさそうだ。
ツールで求められる役割は、セカンドエース的な役割を担いつつ、エースのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)のアシストが最優先任務になると思われる。勝負の3週目に向けて、今はコンディションを温存しているのかもしれない。
総合16位、ミケル・ランダ(スペイン、モビスターチーム)
活躍期待度:★★★★☆
総合期待度:★★★☆☆
第5ステージでは終盤に独走に持ち込む切れ味鋭いアタックを見せるなど、一時は総合7位につける好走を見せていた。
しかし、最終ステージの個人TTでステージ86位と大失速。これでは総合争いは厳しいと言わざるを得ないパフォーマンスだった。
トリプルエース体制を築くチームメイトのキンタナとアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)が好調なだけに、ランダの状態が気がかりである。
ツアー・オブ・スロベニア
総合優勝、プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ロットNL・ユンボ)
活躍期待度:★★★★★
総合期待度:★★★★☆
第4ステージではラスト20kmを独走勝利、第5ステージは個人TTをぶっち切りで勝利して、地元開催のステージレースで総合優勝を飾った。
これで、イツリア・バスクカントリー、ツール・ド・ロマンディに続き、出場3レース連続総合優勝を飾っており、成績だけ見るとツールの総合優勝候補の筆頭ではないかと思うほどである。
しかし、いずれのステージレースも10km以上に渡って上り続けるような超級山岳フィニッシュのステージは経験していない。
ログリッチェの身体を見ると、一際ゴツい太ももが目に入る。したがってログリッチェ自身はいわゆるクライマー体型ではなく、ここまでのレースは彼の類まれなるパワーで押し切って勝ってきたといえよう。
とはいえ、元々スキージャンプの有力選手だったこともあり、プロデビューは20代後半と遅咲きだったログリッチェは、日に日に進化している印象を受ける。ツールの大舞台でさらなる飛躍を見せることができるだろうか。
総合2位、リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト・ドラパック)
活躍期待度:★★★★☆
総合期待度:★★★★☆
第3ステージでは、上りスプリントだったとはいえ、今期絶好調のダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)をコーナーの外側からまくる力強い走りを見せてステージ優勝を飾った。順調な調整ぶりを見せているようだ。
個人TTステージでは、勝利したログリッチェから1分17秒遅れのステージ15位だった。ログリッチェがスペシャルであることを差し引いても凡庸なタイムだったことはやや心配である。
総合6位、ラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)
活躍期待度:★★★☆☆
総合期待度:★★☆☆☆
昨年大会の総合優勝者だが、個人TTでの失速が響いて総合6位に終わった。
しかし、山岳ステージとなった第3・4ステージではウランに匹敵する走りを見せており、調整は順調そうに見える。
ツールの総合争いにおいては、タイムトライアルの遅さがかなり足を引っ張ることになりそうだ。
2回にわたってレビューした選手だけでなく、ジロに出場したクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)とトム・デュムラン(オランダ、チームサンウェブ)も忘れてはならない存在だ。
特にフルームはジロで狙い通りのタイミングに、最高のコンディションに整える力が傑出していることを証明した。ツールには連戦といえども、最終的には絶好調に持ってくるに違いない。
一方のデュムランは、「ツールは厳しい」というようなコメントを残しており、総合優勝の可能性は未知数だ。自信は無かったけど、走ってみたら意外と行けた、みたいなこともあり得るだろうし、それでも有力候補の一人であることに疑いはない。
いずれにせよ、今年は例年以上に豪華なメンバーが揃ったといわれたジロ以上に豪華なメンバーが出場予定であり、スペクタクルなレース展開が期待できるだろう。
※前編もどうぞ