サイバナ

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コラム 移籍情報2017-2018

主力選手が大量流出したクイックステップの長期戦略とは?

クイックステップ・フロアーズはシーズンを通して、まんべんなく勝利を飾っていた。
2017年シーズンは、チーム全体で52勝を積み重ねており、10月17日時点では全ワールドチーム中最多である。

2位にBMCレーシングが48勝で続くものの、10月19日に開幕する新規WTレースであるツアー・オブ・広西には、クイックステップの勝ち頭であるフェルナンド・ガヴィリアやジュリアン・アラフィリップも出場予定とあって、さらに勝利数を増やす可能性が高そうだ。

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今シーズンもチーム最多勝となれば、5年連続の快挙である。2008〜2011年にかけてかつてのチーム・コロンビアやHTC・ハイロードが打ち立てた4年連続を越えそうである。

しかし、その勢いも今年までかもしれない。

というのもクイックステップのあげた52勝の内訳を見てみると、

マルセル・キッテル 14勝
フェルナンド・ガヴィリア 10勝
マッテオ・トレンティン 7勝
フィリップ・ジルベール 5勝
イヴ・ランパールト 3勝
ボブ・ユンゲルス 2勝
ダビ・デラクルス 2勝
ジュリアン・アラフィリップ 2勝
マクシミリアーノ・リケーゼ 2勝
イーリョ・ケイセ 1勝
ゼネク・スティバル 1勝
ダニエル・マーティン 1勝
トム・ボーネン 1勝
ジャック・バウアー 1勝

となっている。
このうち、キッテル、トレンティン、デラクルス、ダニエル・マーティン、ジャック・バウアーが移籍、トム・ボーネンが引退を決めているので、計26勝分の戦力を失ってしまうのだ。

では、勝ち頭になりうる選手の補強は進んでいるのかというと、現状ではチームスカイのエリア・ヴィヴィアーニを獲得するのみに留まっている。
それ以外では、25歳以下の若手選手を中心に補強を進めている状況だ。

そんな戦力で大丈夫か?
かねがね噂されている資金難なのではないかと、疑惑が強くなるのも無理はない。

だが、クイックステップの来季の戦力分析を進めていくなかで、ある事実に気付いた。

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選手の年齢分布からわかること

移籍を決めた選手たちの年齢と、新加入選手、今シーズン中に契約延長を決めた選手たちの年齢を並べてみる。

・移籍を決めた選手
マッテオ・トレンティン 28歳
ジュリアン・ヴェルモト 28歳
マルセル・キッテル 29歳
ジャンルーカ・ブランビッラ 30歳
ダニエル・マーティン 31歳
ジャック・バウアー 32歳
プルツェミスラウ・カスペルキーウィッツ 23歳(※トレーニー)

・新加入選手
ホナタン・ナルヴァエス 20歳(〜2020年)
アルバロ・ホデグ 21歳(〜2019年)
ファビオ・ヤコブセン 21歳(〜2019年)
ジェームス・ノックス 21歳(〜2019年)
フロリアン・セネシャル 24歳(〜2019年)

エリア・ヴィヴィアーニ 28歳(2019年)
ミカエル・モロコフ 32歳(〜2019年)

・契約延長を決めた選手
エンリク・マス 22歳(〜2019年)
フェルナンド・ガヴィリア 23歳(〜2019年)
ダヴィド・マルティネッリ 24歳(〜2019年)
ジュリアン・アラフィリップ 25歳(〜2019年)
ボブ・ユンゲルス 25歳(〜2020年)

ティム・デクレルク 28歳(〜2019年)
ピーター・セリー 28歳(〜2019年)
ゼネク・スティバル 31歳(〜2019年)
ファビオ・サバティーニ 32歳(〜2019年)
ニキ・テルプストラ 33歳(〜2018年)
ドリス・デヴェナインス 34歳(〜2019年)
マクシミリアーノ・リケーゼ 34歳(〜2019年)
イーリョ・ケイセ 34歳(〜2019年)
フィリップ・ジルベール 35歳(〜2019年)

・すでに来季以降の契約がある選手
レミ・カヴァーニャ 22歳(〜2018年)
ローレンス・デプルス 22歳(〜2018年)
マクシミリアン・シャッハマン 23歳(〜2018年)
ペトル・ヴァコッチ 25歳(〜2018年)

イヴ・ランパールト 26歳(〜2018年)

・未定
エロス・カペッキ 31歳

・引退を決めた選手
マルティン・ヴェリトス 32歳
トム・ボーネン 37歳

青字は25歳以下
赤字は31歳以上

31歳以上のベテラン選手7人に対して、契約延長をしているのだ。
そして、25歳以下の若手有望株とも契約延長し、21歳以下の選手を4人も獲得している。

現時点での来シーズンのメンバーの年齢構成は

25歳以下:14人
26〜30歳:4人
31歳以上:8人

という、上下に手厚い砂時計型のような年齢分布図を形成しているのだ。

この事実から導き出される推論は、クイックステップが長年培ってきたノウハウと勝利の哲学を、若手選手たちに継承させようとしているのではないか、ということだ。

勝利の追求と世代交代の両輪を回すチーム戦略

移籍する選手の多くはエース級の選手ばかりで、高給取りであることが想像される。
ジャック・バウアーはニュージーランド出身ということもあり、オーストラリア国籍のオリカ・スコットに移籍したのは納得がいく。
ヴェルモトはベルギー人であり、クイックステップにとって契約延長しない理由がない選手だ。恐らくディメンションデータに引き抜かれてしまったのだろう。

契約延長した選手は、アラフィリップ、ガヴィリア、ユンゲルスを筆頭に、すでに実力が台頭しつつある有望株ばかりだ。
今後2年間は、この3人を中心としたチームにするというチーム方針の現れだろう。

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そして、31歳以上のベテラン選手たちと最大2年間もの契約延長を行ったことが最も肝要だ。
一見この選手たちはエース格にも見えるが、アシスト能力もずば抜けて高い。

デヴェナインスとケイセは、なかなか目立つことはないが、勝負どころを迎える前に仕事を終えるようなルーラータイプの選手だ。
逃げのチェック、集団のペースの上げ下げ、エースの護衛など多くのノウハウが蓄積されていることだろう。

スティバルは、パリ〜ルーベで見せた働きぶりと駆け引きの巧みさは絶妙だった。エースが遅れてしまい、自分がエースとして走らねばならなくなったときの切り替えが素晴らしかった。

※参考:ゼネク・スティバル、死力を尽くした2位。そこには世界一美しい敗北者の姿があった。

テルプストラは状況判断能力に非常に優れた選手である。目まぐるしく変わるレース展開の先を読んで、今すべきことを自分の判断で遂行できるのだ。

※参考:"職人"ニキ・テルプストラ。ヘント〜ウェヴェルヘムでサガンにキレられた動きの真意とは?

サバティーニの牽引力とポジショニングは、もはや芸術的である。当たり負けしない身体つくりの知識も豊富に違いない。

※参考:マルセル・キッテルが乗り込む『特急クイックステップ号シャンゼリゼ行き』とは?

リケーゼのローテーション妨害の動きは卓越しており、サバティーニと同様に最終発射台としての仕事ぶりも素晴らしい。

※参考:パリ〜トゥールで集団はなぜトレンティンに追いつけなかったのか?

そして、何よりももはやレジェンドであるジルベールこそ、チームの勝利のために何をすべきが最も理解している選手だといえよう。

※参考:フィリップ・ジルベールはクイックステップのエースではないのか?

このように、サイバナで何度も特集するほど、アシストとして際立った動きをしている選手たちが軒並み契約延長を果たしている。

ナルヴァエス、ホデグ、ヤコブセン、ノックス、セネシャルら新加入の若手選手たちは、将来アシストになるかもしれないし、エースになるかもしれない。
ケイセ、サバティーニ、リケーゼのようなアシスト専門の選手のノウハウを身につけることも大切だが、スティバル、テルプストラ、ジルベールのようにエースも担う選手たちの勝利哲学を学ぶことは何よりも重要なことだ。

若手選手を多く獲得した理由は、世代交代を進める意図によるものだろう。
来シーズンは絶対的エースとなるアラフィリップ・ガヴィリア・ユンゲルスの勝利のためにベテラン勢が中心となってアシストしつつ、若手にもノウハウと哲学の継承を行うチームとなるはずだ。

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アラフィリップ、ガヴィリア、ユンゲルスだけでも多くの勝利が期待できる。
新加入のヴィヴィアーニだけでなく、ジルベールも健在だ。
とはいえ、さすがにシーズン連続50勝の記録は途絶えてしまうかもしれない。

だが、クイックステップは目先の勝利を狙うためだけの補強には走らず、2年・3年先を見据えて長期的に繁栄し続けるための世代交代戦略をとったのだ。

1990年代に栄華を誇ったマペイの後継チームであるクイックステップは、これからも最強の系譜が途切れることはないだろう。

Rendez-Vous sur le vélo…

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