サイバナ

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コラム ツール・ド・フランス2017

ツール総合3連覇を果たしたクリス・フルームに、いま一番期待してることとは?

「前を走るバルデを視界に捉えたとき、総合優勝が決まったと思ったね」

と、クリス・フルームは最後の最後まで決して気を抜くことはなかった。

終わってみれば、山岳ではペース走行で付け入る隙を与えず、得意のタイムトライアルでタイムを稼ぐ、いつものパターンでの勝利だった。
だが、もちろんツールへのアプローチの仕方は変えていただろう。

※参考記事:『ドーフィネ個人TTで失速したクリス・フルームは本当に不調なのか?

今年のフルームは出場レース数を少なくしてスローペースだなんて言われてが、ツールまでに出場したレース数は昨年と全く同じだ。
だが、出場したレースの成績は良くなかった。
2013年以降、シーズン0勝のままツールを迎えることは、フルーム自身初めてのことだった。

今大会のフルームは山岳でのペース走行に加えて、ダンシングを使うシーンが目立った。
最強のライバルになるはずだったリッチー・ポートや、体調が万全なナイロ・キンタナが得意とするダンシングでの急加速に対応するために、磨いた力ではないかと思われる。

しかし、ポートは落車リタイア、キンタナはジロとの連戦疲れもあって絶不調に陥っていた。
リゴベルト・ウランは自らフルームに攻撃を仕掛けることはなく、一時は総合首位に立ったファビオ・アルも重要なアシストを2人失って崩壊。
ロマン・バルデが、AG2Rの総力をあげてフルームに攻撃を仕掛けて可能性を見せたものの、肝心のTTでバッドデーを迎えてしまった。

各ステージの細かい動きを見ていると、フルーム個人に対してつけいる隙はあったように思えが、その隙さえもチームスカイのチーム力をもって、完璧に埋めてしまった。
今年フルームが総合優勝できた要因は、個の力だけでなくチーム力の高さも大きな比重を占めているだろう。

グランツールでの総合優勝するパターンのほとんどが、厳しいステージで爆発的な力を見せて勝ち、築いたリードを守る展開がほとんどだ。
ところが、今年のフルームはステージ0勝に終わっている。
ステージ0勝のまま総合優勝を飾った選手は、例外といえる2006年のオスカル・ペレイロを除くと、1990年のグレッグ・レモンまで遡らねば見つからない。

もちろん、今年のツールはタイム差がつきにくいステージ構成である、フルームは序盤からリードがあったからリスクをとった攻めをしなかっただけ、という指摘もあるだろう。
だが、チームスカイのチーム力の高さとツール・ド・フランス3連覇にかける意気込みが、それらの指摘全てを上回る強い印象を残したように思える。

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徹底的な準備を怠らないチームスカイ

ここでいうチーム力とは、アシスト選手たちの充実度だけではない。
ツールに関わるスタッフ、機材など全ての要素を含めてチーム力と表現している。

初日の個人TTで披露した、肩口がディンプル加工されたスキンスーツはその例だ。

恐らく度重なる風洞実験によって、従来のスキンスーツよりプラスの影響を与えると判断して採用したのだろう。
結果として、第1ステージは4人の選手をトップ10に送り込んだ。

加えて、フルームは先に出走した選手に帯同するチームカーに乗り込み、レース速度でのコース下見を行っていた。
ちょっとした手間を惜しまず、やれることを全てやった結果、14kmの個人TTでライバルたちから30秒前後のリードを築くことができた。

さらに選手の体調管理にも尋常ではない労力を割いている。
チームスカイの選手たちが宿泊するホテル内の設備、ベッドやシーツはもちろん、テレビのリモコンやベッドの下の床やカーペットに至る隅々まで、全てを消毒殺菌してから選手を迎え入れていたのだ。

あまりにも無菌状態だと、かえって人間の免疫力は低下するので、すべてのレースで徹底した殺菌消毒をしているとは思わない。
あくまでツールにおいて、わずかでも選手が体調不良に陥る可能性を取り除くための特別な施策だろう。。

ゲラント・トーマスは落車リタイアしたものの、他の8人の選手は完走した。
セルジオルイス・エナオのコンディションはあまり良さそうには見えなかったが、ルーク・ロウやクリスチャン・クネースは連日集団牽引の仕事を担いながらも、ずっとコンディションを維持していた。
ジロ・デ・イタリアからの連戦となったミケル・ランダも連戦疲れを感じさせない走りを見せていた。

新技術の開発、食事からの栄養補給、マッサージ等による身体のケア、そして風邪や腹痛の原因になり得るウイルスの抹殺。
チームスカイのスタッフ、マッサー、ドクター、メカニック、全ての人々が入念な準備と、0.1%でも勝率をあげるための細かな徹底したこだわりが、フルームの総合3連覇に繋がっているのだ。

もちろんアシスト選手の仕事ぶりも素晴らしい

とりわけミカル・クウィアトコウスキーの働きぶりは凄まじかった。
1人で5人分くらいの仕事をしていたと言えよう。

※参考記事:『ミカル・クウィアトコウスキーは世界最強のアシストだ。実力・人格全てにおいて。

さらに山岳でのミケル・ランダの牽引も素晴らしかった。
自身も総合4位に入り込んだ。

レース序盤は、常にルーク・ロウ、クリスチャン・クネースが先頭で牽いていた。
ルーク・ロウは総合167位で完走したが、全選手中最下位だった。
これは、誰よりも序盤から集団先頭で引き続け、最初に仕事を終えていった証拠だ。

ジロからの連戦となったヴァシル・キリエンカは、平坦路から山岳への繋ぎ部分で重要な役割を果たしていた。
ミケル・ニエベも、スカイ山岳トレインの一角として献身的なサポートを見せていた。

セルジオルイス・エナオは、あまり調子が良さそうではなく、勝負どころを前にフルームのいる集団から脱落していることもしばしばあった。
それでも、第15ステージでフルームにメカトラが発生した際の集団復帰に大きく貢献していた。

第9ステージでゲラント・トーマスを失ってしまい、エナオが不調でも、チームスカイの集団コントロール力は抜群だった。

今大会で逃げ切りが決まったステージは、第8・13・15・17・19ステージだ。
それらのステージでフルームはどれくらい遅れてフィニッシュしたか調べてみた。

第8ステージはリリアン・カルメジャーヌから50秒遅れのステージ18位。
第13ステージはワレン・バルギルから1分48秒遅れのステージ8位。
第15ステージはバウケ・モレマから6分25秒遅れのステージ28位。
第17ステージはプリモシュ・ログリッチから1分13秒遅れのステージ3位。
第19ステージはエドヴァルド・ボアッソンハーゲンから12分27秒遅れのステージ27位。

チームスカイは大量のタイム差がつく逃げは第15・19ステージの2回しか許していない。
逃げが決まったとしても、逃げ切る選手は最小限に留めるよう集団コントロールをしていた。
その第19ステージでも、最大7分程度の差に留めておき、スプリンターチームに逃げ集団を追う意思がないと見たら、集団のスピードを緩めて12分以上差を広げてフィニッシュした。

チームスカイはリーダーチームとして集団牽引するだけでなく、他のスプリンターチームへの協力を惜しまなかったように見えるし、間違いなく今大会で最も集団牽引に貢献していたチームだろう。
一番仕事をしているチームとも言える。
だからこそ、他のチームからすれば文句がつけにくいことだろう。

集団の中で、無用な敵をつくることをせず、圧倒的な仕事量で集団を支配。
まさに王者の戦略だった。

次なる目標はダブルツール、だがそれ以上に期待したいことがある

フルームは、ブエルタ・ア・エスパーニャに出場し、ダブルツールを狙う。
ジロからの連戦組が軒並み不調に陥っていることから、グランツールに連戦して好成績を残すことは非常に難しいことだ。

それでも、例年よりシーズン前半を抑えめに走ったフルームなら、ダブルツールを視野に入れて調整してきているという見方もできる。
昨年大会より有力選手が多く集うが、フルームが総合優勝の最右翼であることに異論はないだろう。

だが、筆者はダブルツール以上に期待したいことがある。
ツールでのフルームの勝ち方、もといチームスカイの勝ち方は文句のつけようがない完璧で綺麗な勝ち方だった。
ゆえに、今こそプロトンの真のリーダーを襲名してもいいのではないだろうか。

かつてはランス・アームストロング、ファビアン・カンチェラーラらが集団を、選手を代表して運営組織と交渉する場面が見られたが、今はそれができる選手はいない。
そんな物言わぬ選手たちをいいことに、昨今の運営組織はやりたい放題になっている感が否めない。
自分たちの安全と保障を確保するために、選手たちは発言力を持つべきだろう。
その役割を果たすことができるのは、目下フルームだけだ。

危険な状況に陥ったプロトンを代表し、運営と交渉するフルームの姿を、いま一番期待している。

Rendez-Vous sur le vélo…

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-コラム, ツール・ド・フランス2017