アルベルト・コンタドールがブエルタ・ア・エスパーニャ出場をもって引退すると宣言した。
元々昨シーズン限りでの引退を公言していただけに、遅かれ早かれレースを退く日はやって来るとは思っていた。
ゆえにショックではあるが、決してサプライズではないだろう。
地元スペインのグランツールで、英雄の最後の走りを脳裏に焼き付けたい。
コンタドール引退、ワレン・バルギルの移籍などビッグニュースが駆け巡っているが、個人的に衝撃を受けたというか予想外だった出来事は、チームスカイのピーター・ケノーがボーラ・ハンスグローエへ移籍を決めたことだ。
トラック出身の生え抜き選手
なぜなら、ケノーは2010年のスカイプロサイクリング(現チームスカイ)発足時からのメンバーであるからだ。
ケノーは元々はトラックレーサーとして活躍していた選手だ。
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ジュニア時代からイギリス代表として、世界選手権、ヨーロッパ選手権で好成績をあげていた。
この頃にイギリス代表のコーチを務めていたのは現チームスカイ代表を務めるデイブ・ブレイルスフォードだった。
ブレイルスフォードの薫陶を受けて育ったのは、ケノーだけではない。
ゲラント・トーマス、イアン・スタナード、ルーク・ロウら現在のチームスカイの主力も同様にトラック出身の選手たちだ。
ブレイルスフォードに関する報道が過熱したときも、トーマスの「100%支持」発言に同調して、「チームスカイの選手は全員ブレイルスフォードを支持しているよ」と発言していた。
I think all the riders on team sky would join me in saying they are completely behind Dave Brailsford
— Peter kennaugh (@Petekennaugh) 2017年3月6日
したがって、トラック時代からの歴戦の友人たちが集い、チームへの忠誠心も厚いケノーがチームスカイを離れることは考えにくかった。
ボーラがケノーを獲得した理由とは
だが、ケノーにとって環境の良さ、居心地の良さは重要なことではなかった。
イギリス国内選手権を2度制し、昨年のカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースで逃げ切り勝利を収めるなどワンデーレースにも強かった。
今年のクリテリウム・デュ・ドーフィネ第7ステージでは終盤に独走に持ち込んで、勝利を飾った。
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というように、ケノーの持ち味はトラックで鍛え上げた高い独走力を活かした積極的な攻めの走りなのだ。
「チームスカイでは、総合のために保守的な走りを要求される。私はそれらに感謝しているが、異なるスタイルにも挑戦してみたかったんだ」
と、Cyclingnewsに移籍の理由を語っていた。
ボーラでは、ペーター・サガンのアシストとして平坦路での集団牽引も担うことができ、上りにも強いためクラシックレースでのサポートも十分にこなせるだろう。
さらにラファル・マイカの山岳アシストを務めることも可能だ。
春のクラシックでは大事な場面でアシストの不在が目立ったサガンにとって、またレオポルド・ケーニッヒのコンディションが整わず山岳アシスト不在のままグランツールに挑んだマイカにとって、ケノーは的確すぎる補強だといえよう。
確かにサガンのアシストは、チームスカイでは決して経験できないだろう。
ケノーのいう”保守的な走り”とはなりにくいだろう。
しかし、マイカのアシストは結局のところチームスカイと同じではなかろうか。
ケノーは本当に”異なるスタイルへの挑戦”だけが移籍の理由だったのだろうか。
本当の野望は何か?
今年の3月に行われたCyclingnewsのインタビューでは総合成績を改善したいと語っていた。
同様の発言は、ゲラント・トーマスも語っているし、ワウト・ポエルスも総合への野望を明らかにしていた。
そして、ジロ・デ・イタリアではトーマスを総合エースに据えて挑み、ツール・ド・フランスは引き続きクリス・フルームがエースを務めた。
ところが、ケノーはどちらのグランツールにも出場できなかったのだ。
ジロは今季からチームスカイに加入したばかりのディエゴ・ローザとケニー・エリソンドが出場し、ツールではコンディション不良のイアン・スタナードに代わってメンバーに選ばれたのはケノーと同じくルーラータイプのクリスチャン・クネースだった。
チームスカイは更なる高みを目指すために、フルーム以外にも総合リーダーを確立しようとしている。
ケノーも総合成績への野心を公言していた。
にもかかわらず、ツールだけでなくジロのメンバーからも外されていた。
残念ながら、ジロとツールのメンバーに選ばなかったということが、現時点でのケノーへのチームの評価を表していることになるだろう。
年齢も28歳と、これからがプロサイクルロードレーサーとして一番良い時期を過ごすことになる。
このまま巨大戦力に埋もれることだけは、避けたかったに違いない。
表向きにはサガンとマイカのアシストをするため、と語っているが心のうちには隠しきれないグランツールへの想いが詰まっているだろう。
マイカはツールとブエルタを中心に走るため、ジロの総合エースの座は空いている。
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ケノーが今すぐグランツールの総合優勝を狙えるとは思えない。
本人も語っているように、2〜3年の時間は必要かもしれない。
ボーラならサガンとマイカが出場しないレースでは、ケノーがエースを担うことも可能だ。
チームスカイでは経験できなかった、総合リーダーとしての経験を積むことが、ケノーのキャリアアップに大いに役立つに違いない。
慣れ親しんだイギリスのチームを、そして何よりケノーをここまで育ててくれた恩師から離れることは簡単なことではない。
それでも挑戦の道を選んだケノーの決断を、心より応援したい。
Rendez-Vous sur le vélo…
いつも興味深い記事をありがとうございます。
層の厚いスカイでは、活躍の場が限られてしまいますよね。クヴィアトコウスキー選手の存在もケノー選手にとって移籍を決断するきっかけになったのかなと個人的には憶測しています。また、彼にとっては、フルーム選手との身長差もネックだったのでは?と考えています。ただし、今年のツールの選考に関してですが、奥様のご出産もあり、パスするよと語っていた記事を読んだ記憶があります。(記事を提示できずごめんなさい。)
しかし、私的にはケノー選手のボーラ加入はとても楽しみです。アルデンヌのクラッシックでエースとして走る彼が見たいなと思っていたので。可能性はあるかなと楽しみにしています。
もん吉さん
> 今年のツールの選考に関してですが、奥様のご出産もあり、パスするよと語っていた記事を読んだ記憶があります
そうなんですね!
本人の意向ならいいのですが、ドーフィネにも出ていたので最終セレクションに落ちたのだと思っていました。
> アルデンヌのクラッシックでエースとして走る彼が見たい
彼に向いていそうですよね。
現状のボーラのメンバーなら、アルデンヌでエースを担えるのはケノーくらいなので良いと思います。
ただ、肝心の本人が4月あたりは不調に陥りやすい点が心配ではありますが…。
チームスカイは今シーズン、大量の選手移籍となりそうですね。
ニエベはオリカ、ケノーはボーラ、ボズウェルもカチューシャへ、そしてランダはまだ未確定ですがモビスターへの移籍の可能性が高そうですし・・・
こんな言い方はあれですが、スカイは1.5軍の選手がどんどん移籍していってしまってる感じですね(ランダは1軍ですが)。
早い話になりますが、来年のTDFメンバーは
フルーム
ゲラント・トーマス
ワウト・ポエルス
セルジオ・エナオ
クウィアトコウスキー
キリエンカ
クネース
ルーク・ロウ
って感じになりそうでしょうか?
TDFはきっとベストメンバーで臨んでくると思いますが、グランツール3つ全部をこのメンバーでいくというのはさすがに厳しいですし、来年のグランツールは全ステージスカイトレインとはいかなさそうですね・・・
それとも誰かビッグネームの獲得があるのでしょうか。
それにしても、ボーラはどんどん強くなりますね。
ダニエル・オス、フォルモロも加入するそうで、新生ティンコフのようになりそうですね。
林さん
グランツールが8人になるので、余剰戦力を放出しているのかもしれませんね。
ランダやニエベが余剰戦力とは思いませんが。
ツールのメンバーは、そんな感じになるかなと思います。
あとは、クネースなのかスタナードなのか、エナオあたりもエリソンドやローザとの入れ替えはあるかもしれません。
タオ・ゲオゲガンハート、ジョナサン・ディベン、オウェイン・ドゥールらの成長に期待しつつ、セバスチャン・エナオに加えて、若手コロンビア人クライマーのイーガン・ベルナールの獲得も噂されていますし、底上げが効くメンバー構成になるのではないかと思います。
来年のボーラは今年以上に面白そうです。