サイバナ

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コラム

ケニー・エリッソンドは、チームスカイのメシアとなるのか?

2017/07/13

メカニカルドーピング疑惑、TUEに関する追及、いつだってチームスカイは逆風に晒されている。

主たる原因は、ツール・ド・フランスをここ5年で4度制覇している、その強すぎるチーム力が忌み嫌われていることだろう。しかも、よりによって英語の国の人たちが強いのだから、たまらないのだ。

かつて、フランスに旅行で訪れた時に感じたことは、フランス人はフランス語に尋常ならざる拘りと誇りを持っていたことだった。

「Hello」「Excuse me」「Thank you」と呼びかけようものなら、無視されるだろう。「Bonjour(ボンジュール)」「Excusez-moi(エクスクーゼモア)」「Merci(メルシー)」と呼びかけないと、人々は聞く耳を持ってくれない。

パリのマクドナルドで、フライドポテトを注文しようとした際に、メニュー表には「Fried」と書いてあったので「フライド」と発音したところ、学生と思しき女性店員に、俗物を見るような目で「は?」って顔をされたことは生涯忘れられないだろう。咄嗟に「フリット」という言葉が脳内をよぎったので、「フリット」と伝えると、すんなりと注文が通った。

決して英語で会話が出来ないわけではなく、フランス語を挟んでの英語のコミュニケーションでないと、機嫌を損ねる人が多いように感じた。

数日間の滞在にも関わらず、フランス人は英語が好きではないのだと感じるには十分すぎる経験をした。理由はアメリカとイギリスが嫌いだからだろう。

ツール・ド・フランスで、フランス人が最後に総合優勝したのは1985年のことだ。翌1986年から2016年までの31年間のうち、アメリカ人またはイギリス人選手による総合優勝は、記録抹消分を含めて約半分の14回に登る。

グレッグ・レモン3回、ランス・アームストロング7回、ブラッドリー・ウィギンス1回、クリス・フルーム3回だ。

とりわけ、アームストロングへの恨みつらみは巨大だ。ドーピングが発覚したことで、偉大なるツール・ド・フランスの歴史を汚すことになったからだ。当時のサイクルロードレース界には、ドーピングが蔓延していただろうし、もちろんフランス人選手だって手を出している人はいただろう。

だが、公式記録に「優勝者なし」と記載される屈辱と絶望は、計り知れないものがある。

ゆえに、アームストロングの時代の再来を感じさせる、チームスカイとウィギンスやフルームのパフォーマンスに対して、またどうせドーピングやっているんだろと追及したくなる心情は理解できなくもない。

と言った状況下で、フランス人選手であるケニー・エリッソンドがチームスカイへの移籍を決めた。

チームにとっては、発足初年度の2010年以来のフランス人選手の所属となる。チームスカイがツールを制してからは、初めてのフランス人選手だ。

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フランス国内でも将来を嘱望されたフレンチクライマー

2012年にFDJでプロデビュー。

2013年、グランツール初出場となったブエルタ・ア・エスパーニャで、第20ステージ「魔の山」アングリルへの山頂フィニッシュコースで、ステージ優勝をあげた。当時22歳のエリッソンドにとって、切れ味鋭い登りをこなすクライマーとして、鮮烈なグランツールデビューを飾ったのだった。

この活躍もあって、2014年以降も毎年ブエルタに出場している。自己最高位は2015年の総合16位だ。

2016年は山岳賞争いで、オマール・フライレとの激戦を繰り広げ、わずか1ポイント差で山岳賞を逃したことは記憶に新しい。

このエリッソンドの活躍を見込んで、チームスカイが移籍のオファーを出した。

だが、フランス人のエリッソンドにとって、フランスのワールドツアーチームであるFDJは居心地が良いところだった。

一方で、エリッソンドの心の中では、このぬるま湯にとも言える状況に身をおいていていいのだろうか?と、自問していた。

仮にツールに出場できれば、注目もされやすいし、誰だってヒーローになれる。地元の友人や、家族たちは大喜びだろう。たとえ結果が伴っていなかったとしてもだ。近年、フランス人選手が低迷しているのは、このぬるま湯的な状況に原因があるのではないかと思う節もある。

そこで、エリッソンドは挑戦の道を選んだ。チームスカイへの移籍を決めた。

当然、チームスカイがフランスメディアの目の敵にされていることは知っていただろう。何より、エリッソンド自身が「チームスカイはロボット集団だと思っていた」と語っていたのだ。

フルームのトレーニングパートナーとして

フルームがオフシーズンにトレーニングをする風景を、度々自身のインスタグラムにアップしている。エリッソンドともにトレーニングする動画も、いくつかアップしている。


Chris Froome(@chrisfroome)のInstgramより

エリッソンドは、ツール3度の総合優勝を誇る、いわばフランス人の敵と言っても過言ではないフルームと一緒に、長い時間トレーニングをしていた。ロボット、サイボーグ、冷酷無比。そう言ったフルームへの先入観は、フルームと共に過ごす時間のなかで音を立てて崩れ去った。

フルームは愛嬌があるし、冗談もよく言い、気も利く、みんなから尊敬されるリーダーだった。エリッソンドもフルームに心を奪われていった。

チームスカイの首脳陣も、フルームとエリッソンドの二人が仲良くトレーニングをこなし、相性が良さそうだと判断したのだろう。それまで、フルームの右腕たる存在だった、ゲラント・トーマスとワウト・ポエルスにジロ・デ・イタリアで総合エースを張らないかという打診をしたのだった。

※参考
ゲラント・トーマスの野心がチームスカイを『世界一のスポーツチーム』に導く

ワウト・ポエルスも野心高らかに。チームスカイはトリプルツールを成し遂げることが出来るか?

そうして、トーマスはジロでエース、ポエルスは来年以降ブエルタでエースを担う公算が高くなった。ということは、2016年ツールのように、トーマスとポエルスがフルームを手厚くアシストすることが出来なくなることを意味する。

だからこそ、エリッソンドにフルームの右腕的存在となるべく白羽の矢が立ったのだろう。

フルームのアシストは、一つの出世街道

トーマスも、ポエルスもそうだが、移籍していったリッチー・ポート、レオポルド・ケーニッヒ、ニコラス・ロッシュたちも、チームスカイでの経験が、自身の選手としての能力を高める結果となったことだろう。とりわけ、ポートの成長ぶりを見ていると、強くそう思う。

※参考
リッチー・ポートの破壊力抜群な"ダンシングヒルクライム"とは?

エリッソンドも、チームスカイで、フルームのそばで、大いに成長していく余地がある。自分のクライマーとしての能力を、もっともっと磨きをかけていきたいと思っているはずだ。

そして、夢は大きくツール・ド・フランス総合優勝だ。もしかしたら、同胞のロメン・バルデ、ティボー・ピノ、ピエール・ラトゥールらが先に成し遂げるかもしれない。

だが、エリッソンドが成長すればするほど、フランス人ファンもチームスカイを応援するようになるだろうし、フランスメディアもチームスカイのエリッソンドのことを好意的に報じることで、チームスカイとフランスの間の緊張もほぐれていくことだろう。

いまのチームスカイの状況を一変しうる可能性を秘めたライダーが、エリッソンドなのだ。

"チームスカイの"エリッソンドが、ツール・ド・フランスでステージ優勝したら、もはや革命である。

2017年、救世主エリッソンドの活躍を祈って。

Rendez-Vous sur le vélo…

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