クリストファー・フルーム、ゲラント・トーマス、エガン・ベルナル、ミカル・クウィアトコウスキーなど超巨大戦力を誇るチームスカイ。
しかし、スポンサー撤退のため現有戦力を維持できるのも今季限りが濃厚。事実上のラストシーズンを過去最高の戦力で挑む。
チームスカイ2019ロースター
レオナルド・バッソ(25、イタリア、PS)
エガン・ベルナル(21、コロンビア、A・C)
ヨナタン・カストロビエホ(31、スペイン、T・RC)
ダビ・デラクルス(29、スペイン、C・T)
オウェイン・ドゥール(25、イギリス、S)
エディ・ダンバー(22、アイルランド、PC)
ケニー・エリッソンド(27、フランス、C)
クリストファー・フルーム(33、イギリス、A・C・T・D)
タオ・ゲオゲガンハート(23、イギリス、C)
ミカル・ゴワシュ(34、ポーランド、R)
クリストファー・ハルヴォルセン(22、ノルウェー、S)
セバスティアン・エナオ(25、コロンビア、C)
ヴァシル・キリエンカ(37、ベラルーシ、T・R)
クリスティアン・クネース(37、ドイツ、RC)
ミカル・クウィアトコウスキー(28、ポーランド、A・T・PC・U・D)
クリストファー・ローレス(23、イギリス、S)
ジャンニ・モスコン(24、イタリア、T・PC・U)
ワウト・プールス(31、オランダ、A・C・T)
サルヴァトーレ・プッチョ(29、イタリア、RC)
ディエゴ・ローザ(29、イタリア、RC)
ルーク・ロウ(28、イギリス、RS・U)
パヴェル・シヴァコフ(21、ロシア、RC)
イアン・スタナード(31、イギリス、RS・U)
ゲラント・トーマス(32、イギリス、A・C・T・U)
ディラン・ファンバーレ(26、オランダ、RS・U)
・新加入選手
フィリッポ・ガンナ(22、イタリア、T・R)←UAEチーム・エミレーツ
ベン・スウィフト(31、イギリス、R)←UAEチーム・エミレーツ
ジョナタン・ナルバエス(21、エクアドル、C)←クイックステップフロアーズ
イバン・ソーサ(21、コロンビア、A・C)←アンドローニジョカトリ・シデルメク(PCT、イタリア)
・退団選手
セルジオルイス・エナオ(31、コロンビア、C)→UAEチーム・エミレーツ
ルーカス・ヴィシニオウスキー(27、ポーランド、RS・U)→CCCチーム
ベナト・インチャウスティ(32、スペイン、C)→エウスカティ・ムリアス(PCT、スペイン)
ジョナサン・ディッベン(24、イギリス、T)→未定
フィリップ・ダイグナン(35、アイルランド、RC)→引退
ダビ・ロペス(37、スペイン、C)→引退
※
S:スプリンター
C:クライマー
A:オールラウンダー(ステージレーサー)
TS:10km以下の短い距離に強いTTスペシャリスト、TL:30km以上の長距離に強いTTスペシャリスト、T:どちらの性質も持つTTスペシャリスト
PS:スプリントに強いパンチャー、PC:上りに強いパンチャー、P:どちらの性質も持つパンチャー
RS:スプリントに強いルーラー、RC:上りに強いルーラー、R:どちらの性質も持つルーラー
E:逃げのスペシャリスト
L:リードアウトマン
U:石畳・未舗装路に強い
D:ダウンヒルが得意
※年齢は2018.12.31時点で換算
2018年シーズンの主な戦績
・シーズン 43勝
(うちワールドツアー 21勝)
・UCIランキング
ワールドツアーチーム:10213pts(2位)
ワールドツアー個人:トーマス(2534.25、4位)
UCIポイント個人:トーマス(2777.25pts、6位)
・チーム勝利数ランキング
9勝 クウィアトコウスキー
6勝 トーマス、ベルナル
5勝 モスコン
3勝 フルーム、プールス
・レース出場日数ランキング
91日 クウィアトコウスキー
87日 カストロビエホ
81日 デラクルス
78日 セバスチャン・エナオ
・グランツール総合成績
ジロ・デ・イタリア:フルーム(優勝)
ツール・ド・フランス:トーマス(優勝)
ブエルタ・ア・エスパーニャ:デラクルス(15位)
・モニュメント成績
ミラノ〜サンレモ:クウィアトコウスキー(11位)
ロンド・ファン・フラーンデレン:ファンバーレ(12位)
パリ〜ルーベ:ファンバーレ(19位)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:セルジオ・エナオ(9位)
イル・ロンバルディア:ベルナル(12位)
戦力補強アナリティクス
評価:★★★★☆
今オフある意味では一番注目を集めたチームがチームスカイだ。大型補強が話題になったわけではなく、スポンサー問題のためである。詳しくはこちらの記事に譲るとして、2020年以降もチームが活動できるかどうか定かではないこの時期に、将来性を見据えた獲得といってもあまり意味はない。
ひとまず、今回の戦力分析は2019年シーズンに勝てるチームであるかどうか、という基準で様々な評価をしていきたいと思う。
即戦力という観点では、ソーサの獲得が非常に大きい。2018年は2クラスやネイションズカップのレースも含めてシーズン10勝をあげた。ステージレースの総合優勝は4回だ。特にブエルタ前哨戦として、グランツール総合上位に食い込むような有力選手が出場するブエルタ・ア・ブルゴスでの総合優勝は価値はとても大きい。そして、若手登竜門レースであるツール・ド・ラヴニールでステージ勝利をあげた。ベルナル級の逸材であり、紛うことなき即戦力である。2019年はジロへの出場が予定されており、ベルナルの山岳アシストを務める予定だ。
ガンナは2016・2018年トラック世界選手権個人パシュートの世界チャンピオンである。短時間の高出力を得意として、ロードレースではタイムトライアルを得意にしていた。また身長193cmのガタイを活かして、UAE時代は北のクラシック要員として起用されることが多く、ブエルタ・サンフアンのクイーンステージでは意外な登坂力も見せており、将来性豊かな選手である。しかし、2020年以降の先行きが不透明なチームにおいては、大型ルーラーとして平坦アシストに起用することが多くなりそうだ。
ナルバエスも将来性豊かな南米系クライマーだ。昨年、クイックステップでプロデビューを飾ったが、スポンサー問題に揺れる同チームとの契約を破棄してチームスカイと契約を結んだところ、移籍先もスポンサー問題に揺れるという皮肉な状況に直面。やっぱり移籍しなければよかった、なんて思うことのないよう、大きく成長する1年になることを期待している。
2010年のチーム創設時のメンバーであるスウィフトは、2017年にUAE・チームエミレーツに移籍して以来の古巣復帰となる。UAE時代の2017年、クリテリウム・デュ・ドーフィネ第7ステージ、ラルプデュエズにフィニッシュするクイーンステージでスウィフトはピーター・ケニャックと共に逃げ切り、ステージ2位となった。スプリンターと思われていたが、意外な登坂力を見せたのだった。チームスカイでは、後輩スプリンターの指導や平坦アシストとしての働きが期待されているようだ。
注目選手プレビュー
ツール5勝クラブ入りを狙うフルーム
「ボヘミアン・ラプソディー」のスマッシュヒットが話題となっているクイーンの名曲「We Are The Champions」を聞いていると、フルームのことを思う。少々、歌詞を引用したいと思う。
I’ve paid my dues(代償は払ってきた)
Time after time(何度も何度も)
I’ve done my sentence(報いも受けた)
But committed no crime(だけども、罪は犯していない)
プロ選手である代償に様々な形はあれど、フルームが払った代償・受けた報いは、数々の批判や中傷だっただろう。
チームスカイのTUE問題、メカニカルドーピング疑惑、そしてサルブタモール問題。様々な嫌疑をかけられてきたが、フルームはいつも必ずシロだった。
And bad mistakes I’ve made a few(時々やらかすことだってあるさ)
I’ve had my share of sand kicked in my face(砂をかけられるようなこともあった)
But I’ve come through(しかし、乗り越えてきた)
And I need to go on and on, and on, and on(俺は前に進みたいだけなんだ)
2012年ツール、アシストの立場ながらエースのブラッドリー・ウィギンスを煽ったことは、よくない行為だった。時折、感情を抑えきれずに激昂する姿を見せたことも一度だけではない。
そして、2015年ツールではレース中に尿をかけられるトラブルもあった。それでもフルームは総合優勝を飾り、勝利のために何度も何度もツールに挑んでいた。
We are the champions, my friends(俺たちはチャンピオンなんだ)
And we’ll keep on fighting till the end(だから、最後まで戦い続けるんだ)
※中略※
No time for losers(負けを悔しむ時間なんかない)
‘Cause we are the champions of the world(なぜなら、俺たちが世界のチャンピオンだからさ)
チームスカイは、サイクルロードレース界の絶対王者として君臨していた。2012年以降、8度のグランツール総合優勝を飾り、世界最大のサイクルロードレースであるツールでは過去7年中6度の総合優勝を果たした。
凄まじい成功だが、すべてがうまくいったわけではない。フルームは負けても次は必ず勝つための対策を練って、常に勝利を狙っているのだ。
I’ve taken my bows and my curtain calls(お辞儀をし、カーテンコールを迎えた)
You brought me fame and fortune and everything that goes with it(あなたたちが俺に富と名声を運んできたんだ)
I thank you all(だから感謝している)
ツール最終ステージ、シャンゼリゼ通りの表彰台でフルームは華々しい表彰台の上で、いつも必ずファンや家族、サポートしてくれる人々への感謝の言葉を述べていた。
サイクルロードレースは特殊なスポーツ。一人でここまで来ただなんて、フルームは微塵も思っていないだろう。
But it’s been no bed of roses, no pleasure cruise(だが、決して楽な道のりではなかった)
I consider it a challenge before the whole human race(全人類と争うような挑戦なんだと思っている)
And I ain’t gonna lose(負けるつもりはない)
And I need just go on and on, and on, and on(ただ俺は前に進みたいだけなんだ)
プロサイクリストは遠征続きだ。家を空ける期間は1日や2日では済まない。グランツールであれば最低3週間は離れるし、世界中の各地を転戦すれば数ヶ月にわたって家に帰れないこともある。家族との時間はどうしても犠牲にせざるを得ない。
それだけではない。体重コントロールのために、好きなように食事は摂れず、失ったエネルギーを取り戻すために1日に成人が摂取する3倍から4倍ものカロリーを毎日摂ることだってある。風邪を引いても、お腹が痛くなっても、おいそれと薬を飲むこともできず、およそ人間らしからぬ生活を送らねば、頂点に立つことはできない。
ライバルは同じプロサイクリストだけでない。絶対王者として知名度が増えるにつれ、普段はサイクルロードレースに興味ない人でも、フルームの名を知ることになる。
そういう興味のない層に向けたニュースの最たるものは、ドーピングに代表されるゴシップだ。フルームがヒルクライムでどれだけ良い走りをしても、見事なダウンヒルを見せても、世の野次馬には届かない。
「またドーピングかあ」くらいの反応だ。フルームはそういった世論に対して、常に自分がクリーンであることを証し、ポディウムの頂点に立ち続けることで戦ってきたのだ。
We are the champions, my friends(俺たちはチャンピオンなんだ)
And we’ll keep on fighting till the end(だから、最後まで戦い続けるんだ)
※中略※
No time for losers(負けを悔しむ時間なんかない)
‘Cause we are the champions of the world(なぜなら、俺たちが世界のチャンピオンだからさ)
チームスカイのスポンサーは2019年限りでのサポート終了を発表した。年間50億円ともいわれる潤沢な予算を提供してくれる新たなスポンサーが登場することは、正直なところあまり期待が持てない。チーム消滅とまではいかずとも、予算を大幅に縮小してチームが継続することは十分考えられる。
つまり今シーズンは現体制で挑む最後のシーズンである。
フルームはツールへの出場を表明している。チームメイトのトーマスとダブルエースで、再び頂点を狙う。なぜなら、彼らは世界のチャンピオンだからだ。
※関連記事:それでもクリス・フルームが偉大なチャンピオンである理由とは?
初のツール総合優勝を飾ったトーマス
自身初のグランツール総合一桁順位が、まさかツールの総合優勝になるとは思っていなかっただろう。何しろ、チームにはフルームが絶対的エースとして君臨し、フルームはツール4連覇と5勝クラブ入りを目指していたからだ。
周囲の喧騒をよそに、2人の間に争いや揉めごとは起きなかった。10年以上にわたってチームメイトだった2人の絆は強固であった。
終盤ステージではアシストに徹するフルームの姿も見られ、トーマスは初のグランツール総合優勝を飾った。
そのトーマスの最大の武器は、ヒルクライムでのスプリント力だ。ツール第11ステージではラスト1kmを切ってからスパートをかけたトーマスが、ステージ2位のトム・デュムランに20秒もの差をつけた。トーマスの爆発力は凄まじく、まるでロケットのようなスピードを誇る。一度仕掛けたら、トーマスは止まらないのだ。
2019年はツール2連覇が最大の目標となるが、それはあくまで個人目標だ。フルームとのダブルエース体制で、現体制最後のマイヨジョーヌ獲得を狙う。
※関連記事:This is G. 男泣きを見せたゲラント・トーマスに感情移入する理由とは?
ここまで期待されて、期待以上の結果を残せる逸材中の逸材なベルナル
さて、とことんベルナルのことを褒めたいと思う。
まず、同郷の先輩であるナイロ・キンタナやエステバン・チャベスと同じように、若手登竜門レースの最高峰であるツール・ド・ラヴニールで総合優勝を飾った。それも難関山岳ステージ2連勝というおまけつきでだ。そうして、チームスカイに移籍。
シーズン初戦のツアー・ダウンアンダーで新人賞を獲得し、いきなり大器の片鱗ぶりを見せつける。「課題はタイムトライアルにある」とは本人談だが、翌月にはコロンビアTT選手権で勝利。そして、初開催のコロンビア・オロ・イ・パスでは大先輩のキンタナやリゴベルト・ウランと遜色ない登坂力を発揮して、総合優勝を飾った。
そして、3月にはボルタ・ア・カタルーニャに出場すると、総合2位をキープしたまま最終日を迎える。最終ステージでは総合2位を守るのではなく、逆転を狙って積極的に仕掛ける姿を見せていたが、直前を走っていた選手の落車に巻き込まれ激しく地面に叩きつけられた。鎖骨と肩甲骨を骨折し、無念のリタイアとなる。
ちょうど1ヶ月後、ベルナルはツール・ド・ロマンディでレースに復帰。さすがに復帰戦は大人しいのでは?という大方の予想を裏切り、第1・2ステージと集団スプリントで6・8位と上位に絡んでいた。すると、第3ステージの山岳タイムトライアルではなんとステージ優勝を飾ったのだ。プリモシュ・ログリッチェやリッチー・ポートといった強豪を抑えての勝利にはさすがに驚いた。そうしてロマンディを総合2位、ポイント賞3位、山岳賞2位、新人賞1位という結果で終えた。
少々休養を挟んで、続いてのレースは5月のツアー・オブ・カリフォルニアだ。アメリカの大地で単独エースを任されたベルナルの才能は大きく開花していく。山頂フィニッシュの第2ステージでは、もうずば抜けた登坂力で圧勝。さらに、獲得標高4800m越えの難関第6ステージでは、フィニッシュまで10km以上残して独走開始。2位に1分28秒もの大差をつける超圧勝となり、初のワールドツアー総合優勝を決めた。
ベルナルの快進撃に、チーム首脳陣はブエルタではなくツールでの起用を決めた。「フルームでなく、トーマスでもなく、ベルナルが総合優勝しちゃうのでは?」「新人賞は堅い」など色々いわれたものの、ベルナルは第21ステージまで徹頭徹尾アシストとして働いていたのだった。
とりわけ印象的だったのは、第17ステージだ。終盤の上りでフルームはトーマスに自身が不調であることを告げたあのステージだ。ベルナルは山岳アシストとして、マイヨジョーヌグループの先頭をけん引。しっかり引ききってから、トーマスを発射して仕事を終えた。しかし、トーマスら先頭集団のペースについていけないフルームの姿を発見すると、もうひと踏ん張りしてフルームに追いつくと、前に立ってアシストを開始したのだった。フルームはデュムランから40秒程度失ったものの、アレハンドロ・バルベルデやロマン・バルデが2分近く遅れたことを考えると、ベルナルのアシストの有無の差は大きかったと思える。というかベルナルがいなかったら、フルームの総合表彰台はなかっただろう。
それどころかトーマスの総合優勝に最も直接的な貢献をしたのもベルナルだといえよう。山岳アシストとして、エース同士の力がぶつかり合うような展開まで他のチームのアシストを脱落させる登坂力があったからこそ、フルームとトーマスが孤立することなく、2人は純粋にライバルたちとの総合争いに集中することができたのだ。
そうして、初めてのツールを総合15位で終えた。終わってみれば新人賞2位だったが、大会中にマイヨブランへの野心を見せたことは一度もなかった。忠実なアシストとして、期待以上の仕事をやってのけるベルナルの実力と素晴らしい性格が明らかになったレースだった。
しかし、この逸材には度々試練が訪れる。ツールが終わって1週間後のクラシカ・サンセバスチャンで、またもや目の前の落車に巻き込まれた。そこには顔面を打ち付け、ほとんど動けないベルナルの姿が、映し出されていた。もちろん、病院送りとなった。軽度の脳内出血、鼻の骨折、口唇裂傷、歯の欠損と、重傷を負ったものの、幸いにも命には別状はなかった。数度の手術を経て、母国コロンビアで養生していた。
2ヶ月後、ベルナルはレースに復帰。2ヶ月後にはレースに復帰していた。しかも、復帰初戦のジロ・デッレミリアを23位で完走。1週間後のイル・ロンバルディアは12位だった。凄まじい回復力である。この段落の冒頭で意味もなく2回繰り返し書きたくなるのも当然だ。
2019年はジロで単独エースとしてグランツール総合を狙う。トム・デュムランやヴィンチェンツォ・ニバリといった強敵と対峙することになるが、ベルナルは総合優勝候補の筆頭だといえる。
オールラウンドに八面六臂の活躍のクウィアトコウスキー
フルーム、トーマス、ベルナルと総合系スターが集うチームで、最も勝った男がクウィアトコウスキーである。筆者はクウィアトコウスキーこそが、チームスカイの象徴だと思っている。
2018年は3つのステージレースで総合優勝を飾った。エース級の働きをしながら、ツールでは黒子に徹してトーマスの総合優勝に貢献。働きすぎて倒れるんじゃないかと心配になるほど、大車輪の活躍をした。
クウィアトコウスキーはどんな状況でも良い走りをすることが、プロサイクリストとしての理想と常々語っており、集団スプリント、ヒルクライム、ダウンヒル、石畳、未舗装路、タイムトライアル、どこでも平均以上の走りができ、ワンデーレース、ステージレース、グランツール、世界選手権とどのようなレース形式でも勝利経験を持ち、エースとしてだけではなくアシストとしても完ぺきな仕事をこなせる本当の意味でのオールラウンダーだ。
2019年はアルデンヌクラシックへの野望を語り、例年より遅めのシーズンインをすることで、4月にコンディションをピークに持ってくる計画だ。そして、シーズン終盤の世界選手権とイル・ロンバルディアもターゲットとしたうえで、ツールではフルームとトーマスのためにアシストに徹する予定だ。
素質は一級でもお騒がせ問題児モスコン
2018年は9・10月の2ヶ月間でツアー・オブ・グアンシー総合優勝を含む5勝と、勝利を量産。一方でサイクルロードレース界きってのトラブルメイカーである。
2017年ツール・ド・ロマンディでケヴィン・レザに人種差別発言をしたとして、チームスカイは自主的に6週間の出場停止処分を科した。
その5ヶ月後、ノルウェー・ベルゲンで行われた世界選手権で、魔法のじゅうたん(=チームカーに捕まって上りなどでラクをする違反行為)が発覚して失格処分に。
さらにその2週間後のトレ・ヴァーリ・ヴァレジーネではレザのチームメイトだったセバスチャン・ライヒェンバッハを故意に落車させたとして、ライヒェンバッハはイタリア警察とUCIに訴える騒ぎに発展。結局、モスコンは証拠不十分として処分されなかった。
そして、今度はツールでエリー・ジェスベールを殴ったとして即座に失格。5週間の出場停止処分も科されていた。
2シーズンで4件ものお騒がせを起こしているのだ。チーム内外の人間関係が重要なサイクルロードレース界でここまでの荒れくれ者はかなり珍しく、ある意味では大物といえるかもしれないが…。
ところが、イタリア人からの支持は厚く、世界選手権ではニバリを差し置いてエースとして出場し5位という好成績を残した。脚質はパンチャーながら、タイムトライアルを非常に得意としており、2017年パリ〜ルーベ5位と石畳にも強い。クウィアトコウスキーに負けず劣らずオールラウンドに活躍できる選手である。
2019年は北のクラシックでエースを務めながら、ジロへの出場を予定している。
LBLを制した実力は健在しているプールス
プールスもグランツール総合への野望を語ったこともあったが、2018年は一旦封印。ジロとツールに出場し、ジロではフルームの山岳アシストとして、最終局面でのサポートが光り、総合優勝に貢献した。(1回だけミスコースしちゃったけど)
パリ〜ニースの個人TTステージで勝利したように、タイムトライアルも速く、上りにも強いため、チームTTを含むグランツールでのアシストとして最高の存在だ。
また、ツアー・オブ・ブリテン第6ステージでは、最後の上りスプリントで激坂スペシャリストのジュリアン・アラフィリップを振り切ってステージ優勝を飾っている。2016年にはリエージュ~バストーニュ~リエージュを制したこともあり、上り坂でのパンチ力もまだまだ衰えていないことを証明した。
2019年はまずはアルデンヌクラシックを目指す。クウィアトコウスキーと共に、2年ぶりのモニュメント制覇を狙う。
イェーツ兄弟だけじゃない、イギリスの次代を担うゲオゲガンハート
タオ・ゲオゲガンハート。いかつい名前に反して、あどけなさの残るベビーフェイスをしている。
2018年はツアー・オブ・カリフォルニアではタイムトライアルでの好走と難関山岳ステージでベルナルの独走を呼び込む強烈なけん引を見せて、自身も総合5位に。クリテリウム・デュ・ドーフィネではクウィアトコウスキー以上に山岳アシストとして存在感を見せ、トーマスの総合優勝に貢献しただけでなく、自身も総合13位に入った。グランツール初出場となったブエルタではあまり目立った活躍はできなかったものの、プロ2年目のシーズンは将来へ大きな躍進を期待させる素晴らしい一年となった。
そんなゲオゲガンハートは日本好き。2015年、チームスカイのトレーニーとしてジャパンカップサイクルロードレースに出場すると、翌年オフにプライベートでガールフレンドと共に日本旅行を楽しんでいた。
日本のファンからの応援も、彼のもとへしっかりと届いているようで、日本語ツイートをすることもあった。
日本のみなさんこんにちは!
カリフォルニアやドーフィネでは応援ありがとうございます!
ロードバイクに乗る際のテクニックを紹介した僕の記事が日本語になっています。
みんなの参考にしてもらえたら嬉しいです https://t.co/ndloYe0to8 @redbull @redbulljapan @redbullbike— Tao Geoghegan Hart (@taogeoghegan) 2018年6月12日
ちなみに、ゲオゲガンハートのガールフレンドはプロサイクリストだ。キャニオン・スラム所属、現イギリスTTチャンピオンのハンナ・バーンズだ。ハンナはタオの2歳年上で、2016年にはタオがU23イギリス国内ロード王者となり、ハンナはイギリスロード王者になっている。
2019年のゲオゲガンハートは、ジロへの出場を予定している。ベルナルの山岳アシストとして、カリフォルニアで見せたような鬼神の如く働きを見せたいところだ。将来的には、イェーツ兄弟のようにグランツール総合を狙える人材であると、筆者は期待している。
※関連記事:タオ・ゲオゲガンハートは、フルームの後継者になり得るのか?
小柄ながら超パワフルなフレンチクライマー・エリッソンド
ジロ第19ステージ、フルーム80km独走勝利のきっかけとなるフィネストレ峠でのアタック直前まで、集団けん引を担っていたのがエリッソンドだった。
正直、チームスカイに移籍した当初は、フランスからの反発を和らげるために獲得したものと思っていた。ところが、エリッソンドは身長169cmの小さな身体を震わせて、がむしゃらに全力で引き切る走りを披露。最強チームの最強山岳アシスト陣の一角として、期待以上の働きを見せてきた。2019年はぜひともツールでがむしゃらに山岳でアシストする姿を世界に見せてほしい。
チーム総合評価
ステージレース:★★★★★
北のクラシック:★★★☆☆
アルデンヌクラシック:★★★★☆
スプリント:★★★☆☆
個人タイムトライアル:★★★★★
チームタイムトライアル:★★★★★
平均年齢:27.2歳
グランツール総合優勝を本当に狙える選手がフルーム、トーマス、ベルナルと3人もいる時点で凄まじい戦力である。その上、難関山岳でライバルチームのアシストを全滅させるほどのけん引ができるクライマーが、クウィアトコウスキー、プールス、デラクルス、エリッソンド、ゲオゲガンハート、エナオに加え、若手のシヴァコフ、新戦力のソーサも控えている。モスコン、ローザ、ダンバーもパンチャー的な脚質を活かして、山岳の入り口で強烈に引き倒すようなアシストが可能だ。
エースと山岳アシストとバランスをとるための平坦アシスト要員には、キリエンカ、スタナード、ロウ、クネース、プッチョ、カストロビエホ、ゴワシュ、ファンバーレに加えて移籍のガンナ、スウィフトと超一級の選手が勢揃い。いま名前をあげた選手だけでも24人いるため、グランツール3チーム分の戦力があるといえる。実際問題、移籍組を除いたスタナード、ゴワシュ、ローザは昨シーズングランツールに出場していない。2019年シーズンはチーム史上最高の戦力を誇るといってもいいだろう。
北のクラシックは、モスコンとファンバーレがエースを務め、アルデンヌクラシックはクウィアトコウスキーとプールスがエースとなる。
スプリントは2016年U23世界王者のハルヴォルセンが最も期待できる。ドゥール、ローレスもスプリント力が高い選手ではあるが、チームがステージレース総合を最優先していることもあって、なかなかしっかりとしたトレインを組むことができていない。だが、豊富な経験を持つスウィフトの加入により、若手スプリンターにも活躍の場が増えるはずだ。
直近2年間、個人TTで勝利した経験を持つ選手は、ベルナル、カストロビエホ、デラクルス、フルーム、キリエンカ、クウィアトコウスキー、モスコン、プールス、トーマス、ファンバーレと10人もいる。当然、チームタイムトライアルもめちゃくちゃ強く、チームTTが設定されたグランツールでは大きなアドバンテージを稼ぐことができる。
グランツールを筆頭とするステージレースでは、他のチームと比べても頭一つ二つずば抜けた戦力を持っている。ステージレースに関しては、★8つくらいつけてもいいと思っている。
だが、何度も言うように、これだけの戦力で戦えるのは、今年が最後と思っていた方がいいだろう。
(おまけ)サイバナの推しメン:クネース
クネースは今年38歳になる大ベテランだ。ドイツチームのミルラムでプロデビューを飾ると、ルント・ウム・ケルン優勝やバイエルン一周レース総合優勝など通算3勝の実績を持つ。2011年にチームスカイに移籍してきて、今年で在籍8年目となるが、スカイでの勝利はゼロだ。いわゆるドメスティーク、献身的なアシスト選手としてチームに重宝されてきた。
クネースの働きぶりを示すデータは、フルームと一緒にグランツールに出場した回数だ。盟友といえるトーマス、元TT世界王者のキリエンカと並んで最多の7回となっているのだ。
さらに、2017年ツール・ブエルタ、2018年ジロとフルームがグランツール3連勝した際、それらすべてのレースにクネースは出場。オフシーズンにはフルームが南アフリカでトレーニングする際に、クネースがパートナーに選ばれるほど、フルームがいま一番信頼を置いている選手ともいえよう。
そして、2019年シーズンはキリエンカとともにチーム最年長選手となった。25歳以下の選手が13人と若手が多いチームにおいて、プロの世界を生き抜いてきたクネースの経験はとても貴重である。「自転車が大好きで、疲れを感じたことはないんだ。だから、引退のことは全く考えてない」と話しており、クネースは働く気満々であり、実に頼もしい。若手の指南役、そしてグランツールでは忠実なアシストとして、集団を引くクネースの姿を何度も見ることだろう。