サイバナ

これからサイクルロードレースの話をしよう。略して『サイバナ』。サイクルロードレースのレース結果やコラムなど、お届けします。

その他レース2017

2017年シーズンを振り返る!独断と偏見によるベストレースTOP10〜その3〜

サイクルロードレースの1年間を振り返る、個人的ベストレースランキングを発表していく。

第3弾は、いよいよトップ3の紹介だ。

・10位から7位までの第1弾記事はこちら

2017年シーズンを振り返る!独断と偏見によるベストレースTOP10〜その1〜

・6位から4位までの第2弾記事はこちら

2017年シーズンを振り返る!独断と偏見によるベストレースTOP10〜その2〜

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3位、ワンデーレースの魅力すべてが詰まった壮絶な消耗戦

ワンデーレースはいたってシンプルだ。そのレースで、純粋に一番最初にフィニッシュラインにたどり着いた者が勝利するからだ。

逃げを泳がして、終盤で吸収してから勝負。という展開よりも、いかにして集団の人数を削り取り、エース同士の小集団での勝負に持ち込むか、という考えで、中盤からフィニッシュまで激しくレースが動き続けることが多いのだ。

今年のストラーデ・ビアンケは、まさしくワンデーレースの醍醐味が詰まりに詰まったレースとなった。

残り70km地点、メイン集団内での落車をきっかけに、難を逃れた有力選手たちの集団と、取り残された集団と分かれてしまった。レースが動いているなかでの落車だったため、前の集団は後ろを待つ必要はなかった。追いつかれまいと少ないアシストを使って必死でリードを守ろうと全開の走りを見せていた。

そこからの70kmの間、前方の集団で走る選手たちは、1秒たりとも休む間はなかった。アタックに次ぐアタックが延々と繰り広げられ、選手たちは体力を根こそぎ奪われていった。最大の勝負どころである最大斜度18%に達する未舗装路で全く動きが生まれない、いや全く動くことができないほどに消耗した選手たちの姿は滅多に見られるものではない。

もはや誰もが限界に達しているように思えるラスト10km。先頭を走る選手は、ゼネク・スティバル、グレッグ・ヴァンアーヴェルマート、ティム・ウェレンス、そしてミカル・クウィアトコウスキーの4人まで減っていた。

緩やかなアップダウンが続く、それまでの激しい未舗装路やアップダウンに比べれば、ほとんど平坦のような道のりで、気がつくとクウィアトコウスキーが1人抜け出していたのだ。

アタックを仕掛けた、というよりは自然とそうなったように見えた。誰もが体力の限界を迎えるなか、クウィアトコウスキーがわずかに脚を残してたように、わたしには見えた。

「ストラーデ・ビアンケ」の名の通り、白い土砂がクウィアトコウスキーのジャージ、ヘルメット、アイウェア、バイク、両腕、両足と至るところに付着している。

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どう考えても数的優位なはずの、スティバル、ヴァンアーヴェルマート、ウェレンスの3人は思うようにクウィアトコウスキーとの差を詰められないどころか、どんどんタイム差が開いていく。

クウィアトコウスキーは20秒以上のリードを築き、ラスト1km地点の激坂区間へと突入。最後の難所でもペースは落すことなくクリアして、フィニッシュ地点の広場へと到達する最後の直線で、クウィアトコウスキーは観客を大いに煽りながらフィニッシュした。

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強い、速い、上手い、丈夫、賢い、あらゆる形容詞の中で、あの瞬間に最も合う言葉は「美しい」だった。

興奮に次ぐ興奮の最後にやってきた崇高な美しさに包まれ、最高の気分を味わうことができた。これぞワンデーレース。ワンデーレースの魅力はここにあるぞと。

なお、戦前の優勝予想に、わたしはクウィアトコウスキーを推していた。直前のレースで非常に好調な走りを見せていたからだ。そして、ストラーデ・ビアンケで予想を越える見事な走りの虜になり、すっかりファンになっていた。

ツールでの活躍も素晴らしかったが、そんなクウィアトコウスキーをさいたまクリテリウムで間近で肉眼で見れたことは一生の思い出となるだろう。

※参考

ミカル・クウィアトコウスキー2度目の栄冠。チームプレーを越えた先の消耗戦とは?

ストラーデ・ビアンケ2017有力選手プレビュー!

2位、世界一美しく、あまりにも劇的な幕切れ

前置きは不要だろう。

アルベルト・コンタドール現役最後の勝利となったブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージは、感動という言葉では表しきれないほど感情を揺さぶられたレースだった。もはや創作を越えた現実だった。

なんとか感動を文字に起こそうと思い、『アルベルト・コンタドールと8人のヒーローたち。』という記事を書いた。自分にはコンタドールの素晴らしい走りについては、これ以上のことを書けない。

ゆえに、ここでは上の記事では取り上げなかった。マルク・ソレルとエンリク・マスについて書きたいと思う。

ヤルリンソン・パンタノの凄まじい牽引もあり、コンタドールは逃げていた選手たちを次々にとらえながら、アングリルを駆け上がっていった。

後方にはマイヨロホ擁するチームスカイが迫りくるなかで、ステージ優勝の見込みが断たれたスペイン人選手たちがチームの垣根を越えて、母国の英雄であるコンタドールの最後のアタックをアシストしたのだ。

クイックステップ・フロアーズに所属するマスは、コンタドール財団が運営するスペインのディベロップメントチームで育った選手だ。当然、コンタドールは個人的なヒーローである以上に、プロ選手としての道を開いてくれた恩師のような存在でもある。

そんな恩人が、決意のアタックを決行している。さらに、マスは本来はチームメイトのダビ・デラクルスをアシストするために前待ちしていたのだが、デラクルスはダウンヒルで落車してリタイアしたとの知らせを受けていた。

マスがコンタドールの前を牽かない理由は何もない。母国の英雄であり、恩人であるコンタドールのために、全開で牽いていた。

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最大勾配23.5%、平均勾配9.8%に達する激坂のアングリルでは、前を走ることによるドラフティング効果は微々たるものだろう。だが、マスの想いは間違いなくコンタドールに伝わったはずだ。コンタドールは全盛期を彷彿とさせる華麗なダンシングで、ぐんぐん加速していくとマスはたまらず千切れてしまった。それはマスにとって苦しみではなく、至福の一時となっただろう。

続いてコンタドールの前に現れたのはソレルだった。2015年ツール・ド・ラヴニール総合優勝を果たした、スペインの期待の星だ。スペイン唯一のワールドチームであるモビスターの一員として、初めてのグランツールを走っていた。

ハッキリ言って、今年のブエルタでのモビスターは最悪だった。エースとして走る予定だったアレハンドロ・バルベルデはツール・ド・フランスでの落車の影響で欠場となり、ジロとツールを走った前年度王者のナイロ・キンタナは、もちろんブエルタを走ることはできない。エース不在のまま挑んだブエルタでは、勝算なき戦いの日々となり、全く良いところを見せられなかった。

その中で、唯一の見せ場になり得る日が、この第20ステージだった。アングリルの上りでは、先行するトマシュ・マルチンスキーを追って2番手を走行していた。ステージ優勝も狙える局面であったが、コンタドールに追いつかれたことで叶わぬ夢となった。

ソレルにとって、コンタドールは憧れの人だったかどうかはわからない。コンタドールはマドリード出身だが、ソレルはカタルーニャ出身だからだ。

それでも、コンタドールの常に前へ前へと積極的に走る姿は、ソレルの心に響いていた。ソレルの夢の一つはグランツールのチャンピオンになることだ。栄光の表彰台の頂点に10度立ったことのある偉大な選手が目の前で、死力を尽くした走りを見せていた。

コンタドールからの強烈なメッセージだ。と同時に、疲労した自分の脚でどれだけ偉大なるチャンピオンの走りに食らいつけるか試したい気持ちが生まれた。コンタドールの前に出て、身体に残る力の限りペダルを踏み込み、そして力尽きた。

コンタドールはソレルを置き去りにして、軽やかに斜度10%を越えようかという強烈な上りを駆け上がっていき、やがてその後姿さえ見えなくなった。ずっと逃げていたソレルと、アシストに引き連れられてフレッシュな状態でアングリルに入ったコンタドールと両者の体力の差は歴然だ。

だが、偉大なるチャンピオンの勝利への走りの強度を間近で体験することが出来た。これは、ソレルにとってかけがえのない財産となっただろう。

かくして、コンタドールは劇的な現役最後の勝負を勝利で飾った。

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マスとソレル。2人のスペイン人が、コンタドールのアシストをしたことが美談として語り継がれるだろう。だが、2人をコンタドールの後継者と論ずることは避けたいと思う。なぜなら、コンタドールはあまりにも偉大すぎるからだ。

100年以上を誇るサイクルロードレースの歴史のなかでも、コンタドールの存在感は突出している。それほどの偉大な選手を、コンタドールがいないサイクルロードレース界に『後継者』という安易な表現で、今を走る現役選手たちに押し付けることは、わたしはしたくない。むしろ簡単に『アルベルト・コンタドールの後継者』を名乗っていいものだろうか。アルベルト・コンタドールの名は重い。

だから、マスとソレルはコンタドールの後継者になんてならなくていい。マスとソレル、それぞれのプロサイクリストとしての目標に向かって走ってほしい。代わりにコンタドールの想いを引き継いでほしい。諦めず、最後まで戦い抜く強い心を。

※参考:

それでも僕らは期待する。アルベルト・コンタドール永遠への挑戦とは?

アルベルト・コンタドールと8人のヒーローたち。

【動画】ブエルタ・ア・エスパーニャ 2017 第20ステージ 残り12km

1位、最初からクライマックス、捨て身の走りで魅せた猛攻撃

今シーズンのレースを振り返り、ベスト10を発表するという本記事は、シーズン序盤から企画していた。

心に残ったレースと内容をメモりながら、どうしても常に上書きし続ける新鮮な感動に気圧されないように、その瞬間に感じた感動の度合いを記録するように努めていた。

そのメモを見る限りでは、1位にはコンタドールではなく、このレースをあげるべきだとわたしは考えた。

それは、ツアー・オブ・ユタ第6ステージだ。

果たしていつ開催されたレースなのか、ご存知ない方も多いだろう。それもそのはず、ツアー・オブ・ユタはHCクラスのステージレースで、開催地はアメリカ・ユタ州だからだ。

第6ステージが行われたのは現地時間で8月5日、日本時間にすると8月6日の深夜から早朝にかけてのことだった。当時、dazncyleのハッシュタグを使って、ツイートしている観戦者は、わたしを含めても数人だったと記憶している。

かくいうわたしも、実は夜勤の真っ最中だった。休憩時間中に中継をチェックしてみると、総合6位のアイゼンハートが、総合5位のブレント・ブックウォルターと共に、メイン集団から抜け出して攻撃を仕掛けていたのだ。

総合首位につけるロブ・ブリトンを擁するラリーサイクリングは、ツアー・オブ・カリフォルニアで2勝をあげたように、コンチネンタルチームとは思えない強力チームだ。実際に2017年はアメリカ最強チームだったといえよう。

そのラリーに対して、表彰台を狙うとかではなく、総合首位をもぎ取るために大胆過ぎる真っ向勝負を仕掛けたのだ。例えるならば、ツール・ド・フランスにおいて、クリス・フルーム擁するチームスカイに対して、クイーンステージの序盤からリゴベルト・ウランとロマン・バルデが協調してフルームのいるメイン集団から飛び出して逆転優勝を狙うような展開だといえよう。

そして、もう一つ伝えておきたいことは、アイゼンハートという選手はパフォーマンスが先行している選手と思われていたことだ。

2016年シーズン後半はBMCレーシングのトレーニーとしてジャパンカップ出場のために来日した際は、チームプレゼンテーションでの突き抜けたパフォーマンス、スカジャンを着込んで街を出歩いたり、警官の白バイと自身のロードバイクを交換して記念撮影したり、レース終了後に「BMC!BMC!」とファンを煽りながら帰宅したりと、ファンキーな男という印象が強かった。

あまりにも面白かったので、来日前は全くの無名選手ではあったが、一躍人気者へとなったのだ。

とはいえ、2017年からはホロウェスコ・シタデルというアメリカのコンチネンタルチームで走ることになり、アイゼンハートの情報はほとんど日本に入ってくることはなかった。そういえば、ファンキーなアメリカ人がいたなあ、というくらいには印象が薄れていた人も多かっただろう。

わたしの興味は、こんなファンキーな男が一体なぜプロサイクリストをしているのかに興味津々だった。そしてどんなレースをするのかと。

アイゼンハートの動向をつぶさに追いかけていると、アメリカ版Jプロツアーのようなレースでシーズン総合優勝を果たすなど、相当な実力者であることが徐々に明らかになってきた。

レースとレースの合間には、日本をモチーフにしたオリジナルサイクルジャージをデザインして、実際に着込んで練習したり、墨絵という非常に独特な感性の絵画を何枚も仕上げたりと、相変わらずプロサイクリストっぽくない言動も貫いていた。

そんなアイゼンハートにとって、ユタの地は生まれ故郷だ。そして、アメリカではツアー・オブ・カリフォルニアに次ぐ規模のステージレースということで、地元で錦を飾りたいアイゼンハートは、ホロウェスコ・シタデルのエースとしてレースに挑んだ。

しかし、得意の個人TTステージで思ったようにタイムは伸びず、総合6位のままクイーンステージとなる第6ステージを迎えた。表彰台圏内の3位とのタイム差はわずかに30秒だ。最後の上りで十分に挽回できるタイム差であり、普通であれば表彰台を狙って終盤の勝負どころまで脚を溜めることを考えるはずだった。

だが、アイゼンハートはそうしなかった。3位ではよしとせず、首位のブリトンを引きずりおろすために、序盤からリスクある攻撃を仕掛けたのだ。

フィニッシュまで70kmを残した地点から、BMCレーシングと協調し、アイゼンハート自らアタックを仕掛けたのだ。

一時期は、バーチャルで総合を逆転できるリードを築いていたが、組織力に勝るラリーサイクリングの追い上げは凄まじかった。

結果としてアイゼンハートの攻撃は失敗に終わった。自らローテーションを回してきたアイゼンハートには上りでライバルたちの走りについて最後の上りでライバルたちに千切られたままフィニッシュした。総合6位から11位へと転落してしまった。地元でのレース、総合トップ10圏外に落ちるリスクを物ともせず、ただ勝利のみに向かって走る。アイゼンハートは生粋のファイターだったのだ。

ツアー・オブ・ユタ第6ステージは、2016年ブエルタ・ア・エスパーニャ第15ステージでアルベルト・コンタドールとナイロ・キンタナが序盤から協調して、クリス・フルームに攻撃をしかけたあのレース展開に似ていた。まさかアメリカの地で、アルベルト・コンタドールを彷彿とさせる走りを見られるとは思いもよらなかった。

しかも、その中心にはパフォーマンス先行のファンキーな男・アイゼンハートがいたのだ。その衝撃の大きさは、アングリルのコンタドールを越えていた。

アイゼンハートが来季も走るホロウェスコ・シタデルは、プロコンチネンタルチームへと昇格を果たした。つまり、アメリカ国外のレースにも参加できるということだ。ツアー・オブ・ジャパン、ジャパンカップでアイゼンハートの姿を再び日本国内で見られることを願っている。

※参考:
華麗に散ったアイゼンハート。パフォーマンスだけじゃない、実力の証明とは?

ジャパンカップで最もファンを増やした男、アイゼンハートとは何者か?

テイラー・"TJ"・エイセンハートがデザイナーデビュー!?

【動画】Tour of Utah 2017 Stage 6

まとめ

順位付けの基準は、自分がどれだけ興奮・感動したかどうかだ。

10じゃ足りないくらい、名レースがたくさんあった。これだけの興奮と感動を1年の間に味わえるサイクルロードレースは、改めて最高のスポーツだと思った。

あなたのベストレースは何か?

ぜひコメント欄に、思い思いのまま今シーズンのベストレースを書いていただければ幸いだ。

・第1弾はこちら

2017年シーズンを振り返る!独断と偏見によるベストレースTOP10〜その1〜

・第2弾はこちら

2017年シーズンを振り返る!独断と偏見によるベストレースTOP10〜その2〜

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